M氏:創作:短編小説

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満月が昇る闇夜で人間の顔が見える
昼間に欠伸を放った屋根上からじゃ見えない
人間は“その顔”を星に見えぬようにと影の中で映す

大人の邪魔をせぬように公園に駆け出す幼子は大人の汚さを嘆いていた
逃げれずにアパートの階段で殴られる少年
昔はそこで母に手を引かれる少女が居た

カーテンの隙間から零れる動きと声は性を交ぜた
その行為が愛を産むと言うのに感覚を優先にしているのが人間だ
昔は埃に包まれた少年が働いていた部屋で

路地裏を覗けば生きる場を終われた生命が膝を抱えている
相応の生命は対等の存在とテリトリーを産む
昔は足を奪われた少年が啜り泣いていた場所で

息をするのが難しいと生物が鳴く刻に
生きる事の難解さに人間は泣いていただろう

時には性に悩む日もあるだろう
人間は考え過ぎてしまうから
時には生の重さに壊れてしまうだろう
人間は死に慣れなさ過ぎるから

正義も悪も其処には無いのだ
お互いが都合良く生きる為に創られた法に悪を見定める力は無いから
友情も友愛も其処には無いのだ
お互いが都合良く生きる為に作られる群れに綺麗事を掲げる価値が無いから

持つべきは己の強さと叫ぶか
持つべきは自由に動ける身体と走るか
持つべきは正しさと勘違うには愚かだ
持つべきは信頼と勘違うには浅はかだ

穢い街に夜空のような光があると教える高台
そこで白い息を揺らすのは2匹の猫の影
奪う息を数える事もせずに光を眺めていた

道に戻れば匂いが強く入り交じる
匂いを縫うように蜂は夜を舞って1つの目配せを
柔らかな匂いも少し目を反らせば消えていた

己を撫でる甘い香りは雨に濡れた金木犀のよう
掌の温もりは緩やかな曲線を生む白髪に向かうのだ
己の為に光を生まずにシャッター音を鳴らされる
気持ちの良い言葉の並びも己には無価値と鼻を鳴らした

各々の大切の為に足を動かす彼らだって人間だ
哀しみも怒りも喜びも楽しみも食んで息を吸う生物だ

己を指さしはしゃいで微笑んでその姿に呆れて
叶える事を誓い、護る事を誓い、走る事を選んだ3つの生命に一鳴きのエールを

1匹の猫の影は溜息と微笑みを生んで己に言葉を吐いた
懺悔も感情も愛も全て貴女のモノでは無いかと一鳴きで返した

どんな繋がりも彼らが見なければ見えないのだ
人間は見ようとしないものに気付けないから

自由に動けぬ生命の声を知る者は限られているだろう
見て見ぬふりも正義足りうるのだから
獣とは違うと謳いながら時には弱肉強食と獣の論を謳うのだ

生きる場所が違うと知るには無知過ぎるから
人間は己の思考を振り回すのだろう
自由を選択出来る力があるが自分で捨て去るのだから

人間と言うのは莫迦だ
吐き捨てるように一鳴きを

影で零した涙も生きる為に隠すのだろう
抱いた不信感も必要無いと生きる為に捨てるのだろう
伸ばされた手も感情も己として生きる為に突き放すのだろう

人間なんてそんなもの
人間なんてそんなもの

感情の生物と、生物から外れた王と謳われど
その総てに囚われて苦しんでいる

人間なんてそんなもの
人間なんてそんなもの

よく食うなぁと頭を撫でる草の匂いの貴女も
所詮は食を得る為に利用されてるだけの人間なのだ
藁の隙間から赤紫の光を見つめて一鳴きを


『みゃお』


お題:子猫
作者:M氏
出演:一匹の黒猫


【あとがき】
子猫じゃなくなっちまったですね
M氏は黒猫を作品に出演させるの結構好きなんですよね
人間に対してそれ程近くもなければ遠くもない
感情を動かしてる訳でもないような
そんな距離感が凄く好きです

11/15/2023, 4:59:30 PM