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「ああ、ええと……。
 天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、……星の事でもなくて、……仕事の話でもない。
 ……君の、好きなものは何?」
 彼に、そう、とても真剣な眼差しで訊かれたことを良く覚えている。だって、とても驚いたのだから。
 今までの彼との会話を思い出すと、私が話しかけるものの、あとは一方的に彼が話して私は聞き役に徹するばかりだったのに。
 どうしたの? と聞くと、知りたいんだ、と返ってきてまた驚いた。彼の眸の色が濃くなっていて、それを見て、私の心臓がどんどんと高鳴っていく。

「私の、好きなものは――――」
「どんな事でも知りたい。好きな食物とか、興味あるものとか。君は何が好き?」

 まるで食らいついてくるような眸に、危うく、あなたよ、と応えそうになってしまい、私は数瞬息を止めた。
「…ココアが好きよ。
 あと食べ物ならシチューが好きだし……大学時代からこっそりキノコの研究を続けているわ」
 ドキドキと煩い鼓動に押されつつ、彼に興味をもって貰えたのが嬉しくて、言うはずじゃなかったキノコ研究のことまで言ってしまったのは、今思い返すと良かったのか。
「そう、なんだね。聞けて良かった。
 じゃあ今度、シチューの美味しいお店を調べておくよ」
 心なし緊張しているように見えた彼の顔が一気に破顔して、喜色に輝いたことが嬉しかった事も覚えている。
 私が、彼と付き合う数日前のこと。


5/31/2023, 2:10:24 PM