風になびく、波のような音を聞く。
尾花色の花穂が光を透かして揺れる様は、いよいよ波打ち際のようだ。
見渡す限り一面に広がる淡い色彩に、心ともなく溜め息をつく。時折紛れ込んでいるのを見掛ける毒々しいまでの黄色がここにはない。それだけのことがなかなかどうして心を躍らせるのだ。
あれはあれで、群れているのを見れば、なんとも鮮やかで悪いものでもないが、わざわざ諍いのように混ざり合うのを見たいとは思わない。そんな息の詰まる光景は日頃のそれでじゅうぶんなのである。
生気を削る慌ただしい喧騒も、思考の渦へ突き落とすような静寂もここにはない。ただ静かなざわめきだけが、うららかな秋の空気と共にすり抜けていく。
ぱちり。
この空間には不相応な機械の音をどこか後ろめたく感じつつ、今しがた切り取ったばかりの景色と眼前のそれを並べてみる。
やはり肉眼には敵うまい。そんな傲慢とともに手元のそれをしまって、今一度ほんとうの世界を見た。
次は君と来よう。この広い世界は二人ぶんの息継ぎをきっと許してくれる。他の誰が咎めても、それに縛られる義理はない。
名残惜しさを深い呼吸で押し止めて、来た道をできるだけゆっくりと戻る。その間にも、花穂の囁きは絶えず通り抜けていく。
美しい秋が、通り過ぎていく。
/ススキ
11/10/2024, 5:53:27 PM