いのちだいじに

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神様へ

「これ知ってる?かみねが。神様が願いを叶えるってやつらしいよ。」

クラスの女子が話す内容を教室の端で聞く。いや、聞くというよりかは彼女達の声が大きいため輪に入らずとも聞こえてくるのだ。今の話の内容はこんな感じだ。最近リリースされた『かみねが』というスマートフォンのアプリ。お願いとお供物を入力して送るとその願いが叶うというものらしい。あやしいのがまるわかりで笑えてきてしまう。

「そんな言うなら一回入れてみよっかなー」
「あ、でもやりすぎはだめだって。先輩が毎日人じゃ絶対叶えられないお願いを叶えてもらってからなのかね、どこに行ったかも分かんなくなったって。怖くない?」

大方、騙されて海外で強制労働でもされているのだろう。まあそんな話はこの平和な環境では聞いたことがないが。やめておいたほうがいい、なんて言えるはずもなくそのまま隅で聞き耳を立てて過ごした。



小さな頃から人と関わるのが苦手だった。友達は欲しかったが一人の時間を大切にしすぎたのか、気づけばずっと一人で過ごしていた。積極性もコミュ力もない人間だ。このままずっと一人なのかもしれない。

月日は流れ、体育祭が明日へとせまっていた。運動が壊滅的にできない人間にとっては地獄でしかない。休もうか。だが皆勤賞は欲しい。もういっそのこと明日も予備日も大雨になればいいのに。残念なことに天気予報は快晴だったな。なんてことを考えているとふとあの日の会話を思い出した。

「たしか『かみねが』だったっけ。危なそうだったらすぐにやめればいいかな」

ストアからアプリをインストールする。ファンシーなアイコンが自分には合わないなと苦笑しつつ冗談半分にお願いを送ってみることにした。体育祭が雨で中止になりますように。

ピコンッ。テテーン。

変な通知音と共に当選の文字が画面に表示された。まるで抽選のようで呆れつつ、明日の筋肉痛へ思いを馳せて眠ることにした。

翌日、窓を叩く雨音を目覚ましに体を起こす。嘘だ。どの天気予報でも降水確率はゼロパーセントだって放送されていた。まさかの出来事に動揺しつつ、母と共に朝食をとる。

「体育祭無くなって残念ねぇ。昨日はお天気もいいってみんな言ってたのに」
「そうだね。でも、所詮予報だし…ごちそうさま」
「あら、もういいの?」

テーブルにあったバナナを自分の部屋に持っていく。お供物がバナナっていいんだろうか。神様とかよくわからないし、まあいいか。バナナを机におき手のひらを合わせてみる。何も変化しなかった。やはりただの偶然なのかもしれない。


それからまた、平和で平凡な日々を過ごしてこんな出来事があったことを忘れつついた。ある枯れた葉が枝から落ち始めていた時期のことだった。その日は遅刻寸前だった。昨日好きなゲームがクリア寸前で夜更かししてしまったからかもしれない。走っても遅刻は免れないと思い何か良い言い訳がないかスマホで調べようとしたとき、あのアプリが目に留まった。お願い、当たれ。

ピコンッ。テテーン。

画面には当選の文字。教室に入ると遅刻ではないが気をつけなさいと、注意された。通常ならば大幅な遅刻である時間帯であるのに。あのアプリは本当なのかもしれない。

そこから頻繁にそのアプリを使用するようになった。お供物もおまんじゅうやお団子を買った。母は和菓子が好きになったのかと質問してきたが曖昧に答えるしかなかった。
お供物は部屋に置いて手のひらをあわせた直後は何も起こらないが、帰ってくるといつの間にか無くなっているのだ。これもなにかの力なのだろうか。


進級して何日かたって友達ができた。はじめての友達と言っていいかもしれない。その子は色々な話をしてくれる。質問をしてくれたり今やっているゲームにも興味をもってくれる。頭も良くてスタイルがいいあの子。気がつけば恋心が芽生えていた。いや、これはもしかしたら愛なのかもしれない。胸の奥が熱くなる。あの子ともっと一緒にいたい。もっと話したい。今度は学校以外で会って、買い物をしたり、デートをしたい。ずっと二人きりで一緒にいたい。

でもそれは阻まれた。あの子と元クラスメイトの女子が楽しそうに話していた。『かみねが』を入れようかと言っていた子だ。もしかしたら彼女も願ったのかもしれない。当選して、あの子と仲良くなったのかも。だめだよ。あなたは友達がたくさんいるじゃん。クラスの中心にいていつも楽しそうじゃん。こっちは唯一の友達なのに。奪わないでよ。

家に帰ってすぐに願った。彼女よりもあの子と仲良くなれますように。あの子の一番になれますように。あの子と両思いになれますように。あの子とずっと一緒にいられますように。大丈夫、だってずっと当たってたから。この願いはどのお願いよりも強い願いだから。お供物だって一番高いやつだよ。だから

ブブー。落選。

は?なんで。なんでこの願いだけだめなの。一番叶えたいものを叶えてよ神様。いつも叶えてくれたじゃん。いつも通り叶えてよ。叶えろよ。叶えろ!!!!

「……ああ。願いが違うや」


あの子に近づくみんなを消してください


ピコンッ。テテーン。





「ねえ、あの子ってさ…」
「前の学校であの子に関わった子みんな消えたんでしょ?親友だったって子も。」
「根暗が親友だったからいじめられてたとか?なんだとしても怖いよね…」
「ね。あ、そういえばさ、これ知ってる?かみねが」

4/14/2023, 2:57:30 PM