花園
頭が割れそうな痛みに、浅い眠りへと引き上げられた。
夢うつつの俺の鼻腔を満たす、甘やかな花の香……。ゆっくりと目を開け、しっかり覚醒すると、視界一杯に広がる、薔薇、ばら、バラ!
……ここは……何処だ?
自分でここに来た記憶など、全く無い。もしかして……これは……転生?
そうだ、身体は? おお、人間のままだ。という事は……この後、可愛い村の娘が来て、『勇者様、お目覚めですか?』……なんてのが、定番の始まりだな。それから、村長の所へ連れて行かれ、女神様のおわす神殿へ行くように、促される。
……目を閉じてから始めた想像は、どんどん広がって行く……。
俺はさっきのかわい娘ちゃんと、女神様に会って、この世界を救うよう頼まれるんだ。
そして、粗末な装備を渡されて、旅立つ。何処に行っても、勇者様は大人気で、死なないで、と涙で潤んだ眼差しで俺を見詰める、各村や町の娘達に、『俺は必ず帰ってくるから、泣かずに待っていろ』……なぁ~んてな。
「ちょっと、あんた!」
ぅん? 可愛い女の子の声じゃない? しゃがれたオッサンの声か?
「何だ? 俺に用か?」
身を起こしながら、出来る限りの『カッコいい』声で応える。
「うぇっ! 酒臭いな。こんな所で寝てるんじゃないよ。あんた、今日の仕事は? とにかく、ここから出て……」
「いててててててて!」
腕をひっぱられ、容赦なく薔薇の刺に引っ掛かれ、悲鳴が零れ続けた。
立ち上がってみれば、何か見たことのある景色。
あれ~~~??? ここは……。
思い出した! 昨夜、愛する万年Bクラス球団が、久し振りに大勝して、祝い酒と称して呑みまくり……で、家に帰るつもりで、フラフラと此処に来て、ダウンしたって事か……。
「今、何時?」
ポケットに突っ込んだ手に、愛用のスマホが触れた。一気に引き抜き、時刻を確認。ありゃあぁぁぁぁぁ! 始業時刻を過ぎている!
「失礼しました!」
遅刻の言い訳を考えながら、走り出す。二日酔いの身体はフラフラして、吐き気が込み上げてくる。
結局、本当の花畑は、俺の脳ミソだったんだよな。
9/18/2024, 1:50:11 AM