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#花咲いて (これは作り話です。)

『気付いて!私はここなの!一緒に遊びましょ!』
誰の声だろうか。遠くにいるような、小さな小さな
声だった。1面の桜の木の下で、花びらが1枚、2枚と落ちていく中で、子供らしき声が聞こえた。
辺りを見回しても、誰もいない。僕は、そっと木に手をかざしてみた。真下で声が聞こえる。下を見ると、花びらだった。花びらが話すなんて、ちょっと物語みたいな話だけど、冗談じゃない。
その叫ぶ花びらを取って、ニコッと笑う僕。
花びらは、その小さな声で、ふふっと笑った。
僕はその花びらを家に持ち帰り、水に入れてあげた。花びらは気持ちよさそうに泳ぐ。花びらの名前を決めてみた。『2人』で悩んだ結果、「桜子」になった。桜子は、とても純粋で、可愛かった。

その日の夜、夜ご飯を食べると、桜子が、お腹がすいたと言うらしい。花びらは、何か食べるのかな?笑いながら、考えた。桜子はどうやら、水だけで
いいらしかった。別の水を用意して、桜子に飲ませると、とても美味しいらしかった。次の日、なぜか桜子は枯れていた。急いで新しい水に変えるが、
もう手遅れだった。涙をふいて、外の土に埋めてあげた。誰も来ない土の中に、自分の看板を立てて。水をあげて。まさか育つことはないだろうと思っていたが、とりあえず、水をあげて観察はした。

次の日、小さな芽が出ていた。これは、もしかして、と思って、水やりを続けた。

7月31日、7月最後の日だった。
なんと、桜子はたくましい桜の木になってたんだ。
育てた甲斐があったと思いながら、桜子のもう大人になった身体に、そっと、手をかざす。あの日を思い出す。あの日も、こうやって、手をかざしたっけ。桜子の笑い声が、僕に染み渡った。

7/23/2023, 2:08:19 PM