テーマ:溢れる気持ち #85
僕と勝瑠は時を駆けるーー
僕たちは知らない地に足をつけた。
僕はどこか懐かしい感じがした。初めてじゃないのは知っている。でもその時の記憶はないはずだった。
それでも、僕の中に何かがうごめいている。そんな気がした。それが一体何なのか。僕には理解できない。
「真兄さん」
僕を呼んだ隣にいる勝瑠を見る。僕はどんな顔で彼を見たのかはわからない。
「ごめんなさい」
ただ、勝瑠は僕に謝った。謝らなくてはいけないのは僕なのに、勝瑠は何に謝っているのだろうか。
「僕…」
僕は気がつくと、繋いでいる手と反対側の手で勝瑠の頭を撫でていた。勝瑠は驚いたように僕を見ている。
「ごめんっていうのはこっちの方だ。今まで…今も。思い出せなくてごめん。勝瑠はずっと僕のことを探してくれていたのに、僕はそれを知らずに暮らしていて」
僕はそう言うと勝瑠は下を向いた。少し小刻みに震えていた。
「真兄さん、行こう。この先にヤツがいるはずだ」
僕たちはずっと手を繋いでいた。
もう離さない。離してたまるか。もう離れ離れになんてならない。
「行こう」
僕がそう言って一歩踏み出す。僕たちはこれから戦いに行くんだ。
ーーコツコツコツコツ。
そこは未来で勝瑠が捕らえられていた、あの施設だった。この時代にすでにあった。そしてヤツも存在していたのだ。
『おい、まだか!!』
そういう声が聞こえる。勝瑠の手を握る強さが強くなったのを感じた。きっとヤツだ。
「勝瑠。もう一人で戦わなくていい。一緒に」
そう言って僕は勝瑠の手を握り返した。勝瑠は僕を見る。そして頷く。
ーーガチャ
音がしてドアを開く。
『何者だ!!』
下っ端っぽい男が叫ぶ。中には数人の下っ端と化け物がいた。
「「この計画を終わらせに来た」」
僕たちは声を揃えていった。すると、奥で叫んでいた化け物がピクリと耳を動かした。
『ボスの計画を止めるだなんて笑わせてくれる。小童共』
下っ端は笑った。気味が悪かった。
こんな前の時代から化け物を作るために何人の犠牲を。
「そう笑っていられるのも今のうち。かかってこいよ、下っ端共」
『この野郎!!』
下っ端たちが襲ってくる。多数相手なんて普段なら絶対に相手にしたくない。でも今回は、一人で立ち向かっているわけじゃない。勝瑠が、弟がいるから…。
僕たちは能力を所々で使いながら、下っ端たちを処理していった。そう時間はかからなかった。
「あとはお前だ。化け物」
僕がそう言うと化け物は僕たちを見て、ニタァと笑った。
『なんだか見覚えのある奴らだと思ったら逃げたやつにそっくりだ。やっぱりここに帰ってきたか。お前らの親は俺の実験台となったことだが…。お前らを取り逃がしたことだけが心残りだったよ。お前らをここで捕らえ、時止めの能力、この俺が利用してやるよ』
化け物がそう言って僕たちに近づく。と、その時。
『自分の子、守れないで』
『親を名乗れるものですか!!』
2つの声が響く。
『な、何だ!?』
化け物の動きが止まった。何かにより捕まったようだ。その声は続ける。
『私達の分まで、生きて! 真!! 勝瑠!!』
僕たちは化け物に近づくと、化け物にあるものをかけた。それは…
『あれ、俺…何してんだ?』
記憶を消す薬だ。これで計画はなくなる。
ボスが記憶のなくなった今、この組織の目的は全てなくなったも同然だった。ヤツを殺すという選択肢もあった。しかしもう、一度未来でヤツを……。
いや、この過去が変われば未来も変わっているはず。未来の僕は手を汚さずに済んでいるはずだ。
「勝瑠。そろそろ…」
僕がそう言うと少し離れたところで何かを見ている勝瑠に近づく。そこには何かがあった。
「これ、母さんのだ」
勝瑠の言葉にハッとなり、それを見た。それはロケットペンダントだった。
「でも…これ開かないや」
勝瑠が寂しそうに呟く。結局化け物の記憶を消しても、僕の記憶が戻ることはなかった。勝瑠はそれに対して僕よりもショックを受けていた。
僕は少しでも勝瑠を励ましたくてそのロケットペンダントを受け取る。
「真兄さん?」
勝瑠は僕を見て首を傾げた。僕が少し力を入れるとそのロケットペンダントが開いた。その時、不思議なことが起こった。脳内に流れ込んできたのは過去の記憶…?
「真兄さん…? 大丈夫?」
僕は勝瑠を見た。僕を見る勝瑠はぼやけていた。
溢れる気持ちが抑えられなかったみたいで僕の目から自然に涙が出ていることに気がついた。
「勝瑠…」
僕はそう言って彼を抱きしめていた。
「真、兄さん…?」
「ぜんぶ…全部思い出した」
僕がそう言うと勝瑠の肩の力が抜けた。
そして2人で泣いた。これは悲しいからじゃない。嬉しいから泣いたんだ。嬉しい気持ちが溢れてしまったから…。
「そろそろ帰ろう」
泣き終わった。やることはやった。勝瑠の言葉に頷く。
『待っている人外たちがいる、未来へ』
2/5/2023, 12:37:10 PM