ぺんぎん

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無題

溶けかけのかき氷、毒々しい色のシロップが滲む。
目の前に居座った彼はみるからに甘ったるいフルーツサンドを炭酸飲料で流し込んでいる。彼と食べる、甘い塊が喉を滑る。
――彼はいつだって、どこか変わり者。
ざくざくと冷たい山の形を崩してさくりと食んでほんのり赤い舌を想像してみる。なんだか雪山を登ってるみたい。せいぜい3、400円くらいの。
静まりかえったビルの屋上のテラス、空が一気に近づいたようなそうでもないような。
へらりと笑みを浮かべた彼はひょろりと長い背をもて余すように食べかけのフルーツサンドと炭酸を日の射したテーブルに残して、風にもたれ掛かった。
私もその後を追う。靡いた髪の感触を確かめるように柔らかい色に触れた。その途端に細い手をからめとられて一瞬さっきまで口のなかにあったはずの冷たくて甘い味を忘れた。ぱっと手をほどいてまたへらりと笑った彼を見つめる。なりやまない鼓動の在処を探す。
やっぱり彼は変わり者。そんな彼に顔を赤くした私も大概だろうか。

崩した雪山はぐずぐずになって今頃甘い色を吸って紅くなっているだろうか。私もきっとおんなじ色だろうけど。

7/16/2022, 4:17:35 AM