『さよならを言う前に』
春、貴女に初めてあったその日から、私は貴女が大好きです。
「それで、相談って?」
「えへへー、あのねあのね!さっきB組の加藤くんに告白されたの!!」
「え、、。あ、あー!加藤くんね、なごちゃん好きって言ってたもんね!おめでとー!」
「えっへへーありがとぉ!」
なごちゃんは嬉しそうだった。
連絡が1通来ただけで、私よりも彼を優先するくらいに。
「あ!ちょっと行ってくるねぇぇ!!」
そう叫んで走って行ってしまった。
なごちゃんは私みたいに同性愛者じゃなくて、普通の人だった。
ちゃんと異性を好きになれる人だった。
でも私はどうしてもなごちゃんが好きで、諦められなかった。
もう少ししたら卒業式。
これ以上一緒にいても辛いから、さよならをすることにしてる。
窓から入ってくる風が、やけに冷たく頬を掠めていった。
あっという間に卒業式。
なごちゃんとの関係は変わらない。
なごちゃんと加藤くんも別れていない。
「愛華ちゃん?どーしたの?」
「なごちゃん。ちょっと私の話聞いてくれる?」
「え、?…うん、聴くよ。」
全開にした窓から吹く強い風が
別れの香りと暖かい日向の香りを運んできた。
私はなごちゃんにきちんと向かい合って一息で言った。
「1年の春、初めて逢ったその瞬間から貴女が大好き。同性だけど、私はなごちゃんが大好き。進路は別々だし、こんな私は気持ち悪いと思うかもしれない。だから、さよならをする前にどうしても伝えておきたかったの。」
言いながら、涙が溢れてきた。
「ごめんね、困らせるだけだよね。聴いてくれてありがとう」
なごちゃんは困惑していて、申し訳なくなって教室の前のドアから飛び出した。
「愛華ちゃん!!!!」
突然後ろから聞こえたその声に驚いて立ち止まった
「そのまま、きいて!」
大きく息を吸った音が聞こえた。
「私も、愛華ちゃんのことが大好き!私と愛華ちゃんの好きは違うかもしれないけど、私は愛華ちゃんとさよならなんてしたくないよ!!勿論加藤くんのことは大切だけど、それ以上に私は愛華ちゃんのことが大好きなの!さっきのこと、気持ち悪いなんて思ってないし、嫌いになんてなってない!むしろちゃんと話してくれて嬉しかった!一緒にいるのが愛華ちゃんにとっては苦しいかもしれない。だけど、私は一緒にいたい!!」
そこまで言って息を切らしながら呼吸する音が続いた。
「一緒に、いられない、かな、、?」
悲しそうなその声に振り向きそうになった。
けど、振り向かないで私は返した。
「私は、一緒にいたい…。なごちゃんと、もっとずっと一緒にいたいよ!」
「じゃあ、一緒にいよ?」
思い切って振り向くと、涙で霞んだ自分の瞳のその先に、
春の満開の、桜みたいな可憐さの
夏の懸命な、向日葵みたいな明るさの
秋の隠した、撫子みたいな無邪気さの
冬の静かな、椿みたいな力強さの
笑顔を咲かせた君が立っていた。
8/20/2023, 1:45:57 PM