はのん

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これまでずっと、大人が嫌いだった。
「何見てんだよハゲ。」
強い言葉を使えば、近寄ってこないからずっとそうしていた。
「待ちなさい!授業中だぞ!」
「こんなのやってられるかよ。馬鹿じゃねーの。」
もうだるい。単位とかどうでもいい。
ずっと、退屈で。
"そらちゃんはどうしてアザだらけなの?”
ずっと…
「気持ち悪い…」
「大丈夫か?」
「え、」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、運悪く届いてしまった。
「別に、なんでもない。」
「そう?でも顔色悪くないか?」
「なんでもないってば!今のは言葉のあやで…」
「お、良い言葉知ってるね。」
「…。」
なんだコイツ。
確か国語教師の…
「あっ!鳴海先生!」
「あれ〜どうしたんですか齋藤先生。今授業中では?」
「ええまぁ。ですが貝塚が抜け出したので…」
「あぁ、それなら今話を聞いていたところですやよ。
なんだか具合が悪いそうで…ここは僕が責任をもって保健室に連れていきますので、齋藤先生は授業に戻ってください。」
「鳴海先生、そんなの嘘に決まってるじゃないですか。ほら、教室に戻れ。」
「やだっ、!」
齋藤に掴まれた所から腕が黒くなっていく気がする。
触るな、触るな、触るな!
「離して下さい。」
「え…」
「…生徒の言い分は、真偽はどうあれ僕は全て信じたいです。」
「鳴海先生?何言って、」
「生徒を、"嘘をつく子供”にはしたくないです。
では僕らは保健室に行くので。」
齋藤の手を振り払って鳴海に手を引かれた。
なんで、同じ大人の手なのに。
暖かくて、優しくて、痛くない。
「ついたよ。
ほら、せっかく来たんだからベッドでちょっと寝たら?」
そう言って私はベットに入れられた。
「…眠くないもん。」
「じゃあ先生が知ってるお話でもしてあげようか。」
「うん、」
「お、素直。」
「悪い!?」
「いや?人間、素直が1番だよ。」
「…なんで庇ってくれたの。」
「さっき言っただろ、素直が1番って。
先生は心に素直だから、生徒のことは1000%信じる。」
「何それ、千パーって、変なの。
自己満じゃん。」
「そうだよ、結局は自己満足だ。」
鳴海は穏やかにそう言った。
「さぁ、そろそろ寝なさい。
貝塚さんはなんでもないって言ったけどやっぱり顔色悪いからね。
眠るまでイソップ寓話のお話でもしようか。」
「…うん、ありがとう。………先生。」




"先生とあたし”(2) 『これまでずっと』

7/12/2024, 7:00:58 PM