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「今日もお仕事、忙しいかな?🤔」
たった1件のLINEだったけれど、私にとっては悲鳴に近しいメッセージだった。精一杯のわがままで、酷く下手くそな私なりの甘え方だった。気づけば外はじんわりと明るなってきていて、送信時間は午前5時すぎを表示している。結局今日もまた、一睡も出来なかった。
きっと、いや絶対、彼はまだ起きていない。朝からこんなメッセージを送り付けて、つくづく自分は重たい女だなと思う。今からでも送信取り消ししようか。いや、それは余計に病んでる印象を増長させるのでは…?送信ボタンを押した親指を恨むしかない。

彼は元々多忙ではある方だったけれど、このところは特に仕事が立て込んでしまっているらしく、家にもろくに帰れていないらしい。それでも必ずお昼の休憩時間にはLINEを返してくれて、私はその都度、つかの間の喜びを噛み締める。結局その後には「忙しいのに、面倒くさいと思われていないだろうか」という疑念に蝕まれ、焦燥と寂寥感に溺れてしまうのだが。
彼の浮気を疑っている訳では無い。彼は浮気なんかする人じゃない…というと信じてもらえなさそうだが、そもそも私は彼の不器用で、寂しがりで、誰よりも優しく誠実な所に惹かれたのだ。周りから重たい重たいと言われる私ですら疑う余地のないほど、彼の浮気を心配する要素は欠片も無い。
多分彼は浮気なんかする前に…これは私が1番恐れていることだけれど…黙って私の前から消えてしまう気がする。彼は優しいから、私に飽きても、私じゃない好きな女の子ができても…最悪な話、私のことを大っ嫌いになっても、きっと不満のひとつも零してくれないと思う。ただ何も言わずに、いつの間にか静かにいなくなってしまうのではないか。そう感じた途端、胃の奥底から全身に不安が溢れ出した。脳みそにも、脊髄にも、心臓にも、赤血球のひとつすら残さず、彼が離れていくかもしれないという恐怖に青ざめた。
分かっている。こんなのは確実に杞憂だ。それに、こんなことを考えて、勝手疑って…彼を裏切っているようなものだ。分かっている。頭の中では、ちゃんと分かってるつもりだ。私は酷く卑屈な人間なのだ。そしてそれは、他人から見れば鬱陶しいのだ。迷惑なのだ。それも…身をもって知った。
それでも、万が一にでも彼を失いたくない。彼から離れたくない。その気持ちが溢れかえりすぎて、いつも最悪なパターンを想像してしまうのだ。彼に嫌われたくないから、彼に嫌われていないか、過敏に、いやそれ以上のifの世界まで考えてしまう。遠足を楽しみにしている子供が当日雨が降らないかと何度も確認するのと同じように、彼の心が私から離れていないか確かめなければ落ち着かない。
とは言えあんまり直接な言い方で彼に私のこの重たい気持ちを伝えるのは気が引ける。彼のことだからきっとまた、不安にさせてごめん、とか言うのだ。彼は何も悪くないのに。そんなことを言われたら、逆にあなたは何も悪いことをしていないのに謝らせてしまってごめんなさい、とまた罪悪感と不安が生まれる。
だから、なるべく明るく、平静を装って、顔文字なんか使って、如何にもなんとなく送ったのだという雰囲気のメッセージを送った。けれど結局私の不安は消えない。また不安は増す。そして結局こうやって後悔している。全く、彼は私の何が好きで付き合っているのだろう。つくづく好事家だ。いや、もしかしたら、本当は無様な姿を見てほくそ笑んでるのかもしれない。それならそれで、彼からの「好き」を疑わないで済む分、返って安心するのかもしれない。けれどきっと彼は今までもこれからも、ずっとずっと優しいままだ。少なくとも私の前では絶対に揺るがない。その度に私は、なんという地獄に堕ちてしまったのだと嘆き悲鳴をあげ、けれどどんどんと彼に溺れていくのだろう。
時刻は6時をまわり、結局意味のなかったアラームがなった。身体の疲れはちっとも消えないままなのに、もうベッドから起き上がらなくてはならない。それに布団から出ても、きっと心は枕に置き去りだ。とても目覚められるような調子では無い。もうあちこちが痛みすぎてなにがなんだかよくわからない。昨夜さんざ泣いたはずなのに、また涙が出てきてしまった。それでもやはり彼に心酔してやめられない。重たい重たい私は、彼の中に沈んで浮き上がれない。明日もまた、不安に痛めつけられるのだろう。

まだ既読はついていない。

7/11/2023, 10:50:59 PM