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# 正直

「正直さ、」
 この言葉で始まる台詞が嫌いだった。
 これの後には大抵悪いことが続く。高確率でアドバイスという名の悪口がくる。そしてそれを放った本人は、自分は良いことを言った、コイツのためになるアドバイスをしてやったとでも言いたげな顔をする。
 こんなことを言う人は大体が自分のことしか考えてない。言われた人の気持ちを考えていない。僕を言い負かして爽快感を味わい、アドバイスできるほど優秀な人材なんだと誇示したいのだ。そんな奴の身勝手な欲望に付き合わされてる事実も腹立たしいし、そんな奴の軽薄な行動で落ち込んでいる自分が情けない。

 正直さ、お前って結構馬鹿だよな。

 正直さ? 何が正直さ?
 なんで傷つける側の奴が、「言わずにはいられない」「お前のせいで言わざるを得ない」みたいな雰囲気出してんの? お前が僕を傷つけたくて言ってるんだろ? 自分が人を傷つける言葉を吐いているということは認識してるから、そうやって自分を正当化するみたいに「正直さ、」って前置きで自分は悪くないって暗に伝えようとしてるんだろ?

 言葉が明確な悪意を持って使われる時ってのは、案外少ない。
 代わりに、「完全に悪い言葉とは言えない言葉」が持つ微妙なニュアンスが、人を静かに傷つけることがある。静かに忍び寄って、誰も気付かないまま殺す、暗殺者みたいに。

6/2/2023, 3:43:51 PM