すずか

Open App

「10年後の私から届いた手紙」

確かに私の筆跡だった

その手紙は
過去からではなく
未来からだった

少し驚いて
それでいて安心していた

私は未来でまだ生きてるのだと

何かの奇跡なのだろうか
今、このタイミングで
生を諦めかけたこのときに

最後にと
ふらふら立ち寄った喫茶店で
空いた席にあった
忘れ物の手紙

確かに私の筆跡だった

過去からではなく
未来からだとわかったのは
宛名が
「10年前の私へ」と
律儀に名前まで記していたから

そんなところは変わってない

私は封を切らずに
手紙をそのまま
テーブルに置いて店を出た

どんな事が書いてあるかなんて
なんとなく想像できた

カラン

店のドアの鈴が鳴る
妙に胸に響く澄んだ音だった

そこで夢から覚めたのだった
私は命を取りとめた

あの不思議な喫茶店は
境目にあったのだろう
生と死の狭間で
まだやり残した事のある人へ
最後のチャンスを与えたのだろう

私は生きる

生きて
10年後どこかの喫茶店で
手紙を書くだろう
未来の私からの手紙を
過去の私へと
読む事をしない
だけど大切な手紙を








2/15/2023, 3:13:11 PM