《泣かないで》

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 胸騒ぎがして目を覚ます。携帯を見れば深夜2時を過ぎており、一緒に寝ていたはずの彼女は隣にいなかった。残る気怠さを無視して寝室を飛び出るも人気はなく、そのままの足で玄関に向かえば普段使っている彼女の靴だけなくなっていた。
 外気温一桁の夜にどこへ向かったのかという気掛かりが次第に焦燥感へ変わる。寝巻きの上から上着を羽織り電話を掛けながら彼女を探す。数回のコール音の後、か細い彼女の声が聞こえる。

「今どこにいる?!」
「……近くの公園、だけど今から帰るから———」
「頼むから動かずにそこにいろ」

 走って10分の距離にある公園のベンチにひとり彼女は座っていた。駆け寄り無事を確認した後言葉に出来ない衝動のまま力強く抱き締める。

「心配かけてごめん、私は平気だから」
「平気ならこんな時間に出歩かない」
「……そうだよね、ごめん」
「謝るのはもういい。何があった」
「私もあんまり分かってないの、ごめん」

 腕の中の彼女は何を考えているか分からない。けれど頬には雫が伝った線がくっきりと残っていた。溢れて止まらないほどに言葉で表せない感情が溜まっていたのだろう。

「迎えにきてくれてありがとう。冷えちゃうから早く帰ろう?」
「……なら約束してくれ」
「ん……?」
「もうひとりで泣くな。泣くなら俺の側にしてくれ」

 今の言葉がどれだけ彼女に伝わったかは分からない。けれどさっきよりも俺を抱き締める力が強くなり抑える事なく声を上げ涙を流す様子を見てもっと彼女を安心させられる男になりたいと思った———。

12/1/2024, 5:02:33 AM