〈懐かしく思うこと〉
「ご無沙汰してます」
「久しぶりですね」
大学合格の報告に私はとある高校に来ていた。
勘の良い人は気づくだろうが、ただの高校じゃない。
退学した高校に挨拶に来ていた。
目の前にいるのは元担任の佐山だ。
今は通信制に通っているので、制服がないためスーツで出向いた。服装はスーツじゃなくても良いとはネットには書いてあったが、先生は私の大学の入学式には来れない。だからこそ見せたくて、スーツを着た。着心地良く着れるほど日は経っていないため、パンプスも慣れていないが、先生の部下になった気分でとても嬉しかった。
同じスーツで、二人でこうやって喋るのは時間が必要だったと、今では思う。
この高校を辞めた当初は自分は逃げた、世間一般のルートから外れた者なんだと認識していた。それを恥に思い、自分で自分の首を絞めていた。
そんな私の行動を予想していたかのように、ある日突然電話がかかってきた。本人は間違い電話だと釈明していたが、私の本音を引き出そうと連絡したのではないかと今では思う。
いつも相談にも乗ってくれたが、私の気持ちは晴れなかった。むしろ気を遣わせているのではないかと不安が増すばかりだった。
体調も徐々に悪くなり、ベッドから起き上がれない日が続いた。それでも先生とのやり取りはやめなかった。唯一の延命措置のような、命綱のように感じた。
時には電話口で口論になることだってあった。
私が勝手に一方的な言いがかりをつけて、自分は駄目な人間だとヒステリックになった。しかし先生は私の電話番号を着信拒否設定にすることもなく、冷静に私を落ち着かせ、諭した。
ここに来るまで、本当に長く感じた。
たったの2年だったが、されど2年。
こうやって報告できることに、私は誇らしく感じてた。
そして、ここまで来ることを懐かしむように二人で話せることを嬉しく思う。
10/30/2024, 1:23:10 PM