2年前、興味本位で占いに行ったことがある。
ショッピングセンターの一角、齢70歳の占い師であった。
「何を知りたいの?」
そう言われて、メニュー表をわたされた。 手相30分 4000円。
タロット30分 5000円。
総合30分 6000円。
占いの相場は分からないが、高く感じてしまうのは占いを信じていないせいだろうか。
これも話の種になるだろうという気持ちが、私の財布から易々と6000円を出させてしまう。
6000円を受け取ると占い師は一冊のノートを取り出した。
「生年月日を教えて。」
「1997年、4月15日です。」
パラパラと慣れた手つきで次々と紙をめくっていく。
「あなた、頑固者でしょ。こうと決めたら絶対譲らない。」
唐突にそう言われ、面食らってしまう。
頑固者かといわれたらそんな様な気がするが、肯定も否定もできずに黙っていると老婆は早口で喋っていく。
「気を付けないと周囲の人間とトラブルになる。自己中心的な振る舞いは気をつけて。あなた、結婚は?」
(そこは占いで見えないのか。)
と思いつつ、
「していません。」
「結婚には向いていないわ。」
はっきり言われてしまった。
(なんだかカウンセリングの様だ。)
老婆はまた何枚か紙をめくっていく。何が書かれているのか気になって、少し前屈みに覗いてみたがパタンと閉じられてしまった。老婆はこちらを睨み付け、押し黙っている。ノートを除いたことが癪に障ったのだろうか‥。
しかし、そうではないと次の老婆の言葉によってわかった。
「あなた、一年後に隠していた秘密が露見するわ。」
「え‥」
「私には分かるのよ。あなたの大きな秘密が。」
老婆はそう言って歯を剥き出しにして笑った。
その醜悪な顔が、本当に私の大きな秘密を知っている、見透かしているようで、嫌な汗が噴き出した。
「なぜ‥、どうして‥」
占いなど当てずっぽうに過ぎない。そうだ。
デタラメだと、言い聞かす自分とは裏腹に体は緊張し、強張っていく。
「秘密はいつかは暴かれるものよ。いくら墓まで持って行こうと思ってもそれは無理なのよ。いつまでもあの感覚を思い出したくないでしょ。」
私はその言葉を聞いて、何も言わずよろよろと立ち上がり、老婆の顔を一瞥し逃げた。
なぜ老婆が知っているのか、占いの力なのか、そんなことはもうどうでも良かった。
一年前。
今思い帰せば些細な言い争いだったと思う。
その当時同棲していた婚約者を突き飛ばしてしまった。その弾みで棚に後頭部をぶつけ、婚約者は倒れた。広がる血。焦った私は慌てて駆け寄り、
「大丈夫!?」
体を揺すったが起きない。ぐったりとしている。
「うぅ‥」
その時、かすかに呻き声が漏れた。良かった。
生きている。
慌てて救急車を呼ぼうと携帯を手にとった時、倒れた弾みで婚約者のポケットから落ちた何かが私の目に止まった。
5/9/2024, 1:03:25 AM