NoName

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ぼくはいま、心の中に閉じこもっている。誰にも触れてほしくない。ずっとそう思っていた。けれど最近は、とてもうるさくノックを繰り返すやつがいる。やかましくて、たまにドアをあけて悪態をついてやる。けれどノックしてきたそいつは「お、開いた開いた」といつも嬉しそう。どうでもいい質問をぼくに振って、ぼくが無視しても「ありゃりゃ」くらいでめげない。それでまた次の日に、扉をがんがんとノックする。これの繰り返し。いつの日からか、ノックの回数が減った。ぼくがすぐに扉を開けるようになったからだ。けれど質問にはあんまり答えてやらない。それなのに、向こうはすごく楽しそう。なにが楽しいんだろう。聞けば「お前の顔が見れたからさ」と答えた。ぼくの顔にはなんにもついちゃいないのに。でも少しだけ、嬉しかった。
気がつけば、ぼくの隣に少しだけスペースが出来ていて、なんとなくそいつがぴったり嵌る気がしたから声をかけてみた。予想どおりぴったり嵌った。なんだこれ?と向こうが尋ねた。ぼくは答える。それが、ぼくがゆるしたお前のスペースさ。向こうは笑う。思ったより深いんだって。まあ、そうなのかもしれないね。

6/4/2024, 3:15:29 PM