──プルルルル
「ドアが閉まります、ご注意ください」
慣れないヒール、大きい鞄。
目の前の扉が閉まって仕舞えば見慣れた街とも、両親とも、仲のいい友達ともしばらくは会うことができない。
練習もなしにいきなり社会に放り出される私は都会への喜びよりも、明日への不安が小さくなっていく故郷と比例してどんどんどんどん大きくなる。
起こしてもらわなくても起きれるだろうか
迷わず会社へ行けるだろうか
きちんと挨拶はできるだろうか
寂しさに、負けてしまわないだろうか──
カタンカタンと揺れる窓に額を張り付けて、未だ寒さに冷える鏡面に息を吹きかける。
そう、まだ寒い、まだ故郷は寒いんだ……。
私を運ぶこの箱が私の生きていく街に着く頃には、窓が冷えていることも、息で曇ることもきっと無いのだろう。
願わくば、その頃には私を襲うこの不安も解けて消えていますように、そう願いながら揺れに任せて目を閉じた。
2/28/2023, 1:57:14 PM