黒衣 結生

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「少年よ 少しだけ話をしないか?」
僕の目の前に座った人は微笑みかけてきた
「いいですよ。」
なぜだか、目の前に座った人の話を聞きたかった僕は真剣な面持ちで頷く
「君は夢の果てを知っているかな」
「は?」
なんの話かと思いきや、意味が分からない。いや意味は何となくわかる。けれど、質問の意図が分からない
「答えてくれ。君は君の夢の果てを知っているかい?」
「夢の、果て………」
ボソリと呟いて手元のティーカップを見つめる。なかのコーヒーは揺らぐばかりだ。
「ない、と思う」
ポロリと出た言葉は問いかけよりも難解だった
「ない…か。そうだね。少年よ。夢の果てなどないのか」
まるで我が子に向ける慈しみのように優しげな顔をして目の前の人は納得しているようだ。
「だって、だから貴方は自分の夢を追いかけ続けているのでしょう?叔父さん。貴方は夢の最果てがみたいんだ。」
彼は僕の言葉に心底驚いたようだった
「その歳で達観したものの考えをするな。少年よ。」
はははと笑い、僕と同じコーヒーを口にする叔父は少し疲れている
「少年の言う通りだ。夢の果てなどない、 俺は俺の夢路を見たい」
自分に言い聞かせるがごとく呟く叔父の言葉を僕もまた自分に刻んだ
「ありがとう、少年。お前に聞いてよかった」
そういうと彼は足元に置いたケースを持ち、半分以上残ったティーカップをおいていく
僕は振り返らず、問うた
「また、会えますか?僕は貴方の人生の旅路を聴くのが好きだ」
「─────」

それ以降叔父に会ったのは、生涯ただ1度きりになった

彼は満足していただろうか?

#旅路の果てに

1/31/2023, 3:21:45 PM