しらたま
不意に足を止める、わざとらしく「ああそういえば……。」
っと、特に意味もないようなことを口ずさみながら、方向
転換をする。
深い意味はない、それに他意はない。ただ、拭いきれない心
を染めた黒いシミと、古傷が足を奪わせる。
ここはなんの変哲もないよくある土手。すぐ近くで歓声が聞
こえる、草野球だろう。何も知らないで楽しそうに……。
小さくため息をこぼして寝っ転がる。
小さな石を3.4つほどミルフィーユのように積み重ねた墓石の
上に寝転び頭をうずめる。
しかし、痛みはない、感覚もない。まるで私がそこには実在
しないかのように、頭を貫通させる。
ゆっくり目を閉じる、忘れもしないあの日のことを思い出
す、掻っ切られた頸動脈はまだ痛む。
カキーン、遠くで甲高い音が響く、そう思った時には何かが
頭の中を通っていくような奇妙な感覚があった。
悪寒が走り、勢い良く上体を起こすと積み上げられた墓石が
壊れていた。
一人の少年がこちらへ走ってくる。
心配そうな、だるそうな顔をして草むらを掻き分け始めた、
「ねぇ、君、これ、落としたよ……。」
少年は驚いた表情をしていたがすぐ笑顔をこちらに向けて感
謝の言葉を述べた。しかしその表情がどんどん曇っていくの
がわかった。
少年は理解したようだこの5畳半の草原のルールを、私は歩
き出した。少年は私を掴もうと追いかける。
その手は空を切る、それもそのはずだ立場が変わったから。
私は歩き道へ出た、この時間帯はよくウォーキングしている
人がいる、ただこの日は誰一人としていなかった。
少し下を見る、ススキに足を取られてその場から動けなくな
ってしまった一人の少年がいた。
11/10/2023, 2:51:37 PM