shiran

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きっと忘れない


暑い暑い夏。
私は都会の喧騒から離れ、のどかな田舎にある実家に帰ってきていた。いわゆる帰省である。

世の中はお盆休み。今年は最長で9連休が取れてしまう長い長い休み。
まぁ、私はまだ学生だからあまり関係はないのだが。

私は帰省した時、必ず行く場所がある。

神社だ。

とても小さな神社であまり人は寄り付かないのだが、私はここが好きだった。
不思議と落ち着けるような感覚。そして私はあの子に声を掛ける。

「久遠、久しぶりだね。元気にしてた?」

「あっ!!奈津!久しぶり!!もうそんな時期かぁ……」

目の前にいる少年は、妖である。
神社に寄り付いた妖らしいが、正体はここの土地神様らしい。
……なぜ私は神様が見えてるんだろうか…

「そうだよ。もうそんな時期。来年からは来れるか怪しいからね……」

「そっか……寂しくなるね…」

そんな風に私達は世間話をする。

「ねぇ、奈津?僕に着いてきてほしいんだ。ちょっとだけ君の時間、ちょうだい?」

「いいよ。それで?どこに行くの?」

久遠につれて来られたのは草原とその向こうに広がる集落が見える丘だった。

「ここ、景色いいね。久遠、こんなところ知ってたんだ?」

「……奈津。僕のこと、忘れないでね。」

「忘れないよ。どうしたの急に。」

「僕ね、そろそろここを出なきゃいけないみたいなんだ。だから……忘れないでね。」

「え……」

振り返るとそこにはもう久遠はいなかった。私はまた、丘から見える景色に目を向ける。
この景色も、思い出も、……久遠のことも。きっと…きっと忘れない。

8/20/2025, 11:04:01 AM