些細なことでも
目映いヘッドライトが横顔を照らす。
「久しぶりだね」あなたが言う。
「2ヶ月くらい前?前に会ったのって」
よそ見しながら、笑って返す。
すぐ気づいた。私ではない誰かが乗った感じ。
見てないふりした、見たことのないライター。
窓を開け、燻らす煙。
いつものように文句を言う私。
「匂いがつくから嫌よ。やめるって言ったのに」
「言ったっけ?」
「嘘つきね」
いつもの軽口。
いつもの会話。
「コーヒー飲みたいな、買ってきてくれる?」
車を降りるあなた。
コンソールボックスの奥底に眠る、見覚えのあるライター。付き合って一年の記念日に私があげたものだ。
(返してもらうわね)
戻ることのない助手席に強めに残す香り。
些細なことでもかまわない。
いつも私がここにいたこと、知らない誰かに気づかせたかった。
「今日は歩いて帰ろうかな」
途中で降ろしてもらい、いつものように別れた。
湿った生温い空気の中、星のない夜空を見上げ、バッグから取り出した煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。
「嘘はだめね」
メロドラマ♪end
9/3/2024, 11:03:12 AM