教室から見える景色が好きだ。
退屈な授業も空の青さを眺める時間だと思えば贅沢な思い出になるし、体育で走らされている先輩方を見て愉悦に浸ることも出来る。
校庭のすみでは雀だかなんだかわからない小さな鳥が砂をついばんでいる。私は空から彼らにエサを与える妄想をする。彼らは突如として上空から降ってきたエサに驚き歓喜するだろう。そして自らのテリトリーだと思っていた空に偉大な上位存在がいることを知り、私を畏怖し崇めることだろう。ああ小さき鳥よ、汝に救いを──…
「…はあ駄目だ、全然思いつかん。」
動かしていた指をストップする。朝にならなくても正気でないと分かる深夜テンションの文章を見返し、いっそどこかに投稿してしまおうかと考える。
眠れないから小説でも書こうとしたが、俺に書ける文はここまでのようだ。とりあえず保存し、寝転がる。
昔から作家になることが夢だったが到底成せない夢だと早々に諦め、今では日々の生活にかまけて本を読む機会すらとっていなかった。
2時間くらいで完成するだろうと思っていた小説は案外難しく、2時間を超えても10行しか書けないほどだった。俺は疲弊した頭でぼんやりスマホを見つめる。
スマホ、現代社会、ソーシャルメディア、ゲーム、ガチャ、天井、課金──連想ゲームのように言葉を浮かばせる。けれども俺の語彙など僅かなもので、数分も経たずに出尽くしてしまう。
偉大な作家達は何をどうしたら偉大になるのか。やはり執筆にも鍛錬があるのだろうか。
ふと髪の毛に眩しさを覚え窓を見ると、外は明るく、空は桃色になっていた。
もう朝か。朝日、朝方、東雲、朝ぼらけ──。
「この一窓だけの景色でいいから、切り取って言語化出来たらいいのにな。」
そうしたらさぞ綺麗な文章が生成されることだろう。写実が上手い作家として名をあげるかもしれない。うつった景色を全て言葉にしてくれる窓…なんていうのもそろそろ発明されるだろうか。
我ながら短絡的で他力的だと思いながらスマホで時間を確認する。
俺は体を起こし、スマホからメモ帳を起動した。先程の駄文が目に入る。
やはり駄文。されど駄文。こうした経験が人を成長させていくのだと言い聞かせ、完成まで持っていくことにした。学校までもう数時間しかないし、今更眠るのは諦めよう。それまでこの小説と向き合ってやると、俺はコーヒーを入れることにした。
外からは雉だかなんだかわからない鳥がホーホーと鳴く声が聞こえている。
9/25/2022, 3:07:39 PM