「パンッ?キラッ?……チカチカ?んー??」
「何一人で喋ってんだ、怖いわ」
「『きらめき』の音ってどんなだと思います?」
まーた変なこと言ってる。
不真面目な後輩は、与えられたレポートもそっちのけでしきりに首を傾げている。
こいつは、今目の前にあるレポートを提出しないと単位が貰えないという事実を忘れ去ってしまったんだろうか。
だがしかし、一度横道に逸れたらどんな結果であれ答えを見つけないと元の道に戻れない性質のこの後輩。
仕方なしとため息をついた。
「フツーにキラキラじゃねーの」
「えーそんな落っこちてるような音じゃなかったですよ」
「キラキラって落っこちてんの……?」
「キラキラキラァってスノードームみたいにゆっくり落ちてる感じします」
「んー……んー?うん……?」
いまいちわかんないわ。
うなずいたけれど、こいつの脳内では違う判定を出したのだろう。
間違いだと言われたみたいで少し腹立たしくて、テーブルに置いてあるマグカップを手に取って息を吐く。精神集中。
「もっとこう、ぐわっ!って感じの。心臓わし掴みするみたいな」
「おう…?」
「全神経持っていかれて、きらめいて見えたんですよ」
「あ、そぉ……」
「今もきらめいて見えるけど。でもあの瞬間の音だけは違うんですよねえ」
しきりに首をかしげる後輩をみながらシャーペンを回す。
答えは見つかったんだろうか。
「ぐわって感じだし、ドンッて感じだし……」
果たしてそれはきらめきの音なのだろうか。
相変わらず意味のわからない後輩だと思いつつ試験勉強に取り掛かる。要領はいい方だけど、努力しないと酷い結果になる運命を抱えているから、しっかり対策しないと。
握り直したシャーペンの向こう側で、何故か頬杖をついた後輩に見られている。
「なに」
「あなたを見つけた瞬間、オレの視界いっぱいにきらめきが広がったなあって」
好きだよ。
オレの家に今オレたちしかいないってのに、囁くようにそれを言った。
憎たらしい後輩は、そのお綺麗な顔に見惚れるような笑みを乗せて笑う。
それが腹立たしくて、恥ずかしくて。
「思ったんだけどさ」
「はい?」
「あの夏の日だったんだから、汗も蒸発して塩になるよな」
「そー…なんですか?」
「そーなんですよ。だからオレがきらめいて見えたってのもさ、太陽に塩の粒が当たって反射光できらめいて見えただけだよ」
オレみたいな凡人がきらめいてたまるか。
ぱちくり。
そんな効果音がぴったりの顔して、後輩はそのあとすぐにテーブルに突っ伏した。
「………ほんと、そういうとこキライ」
髪から覗く耳がほんのり赤く染まっていて。
人を振り回す問題児を逆に振り回している。
少しだけさっきの鬱憤もはらせたし、機嫌を良くするために手始めに頭を撫でてやろうと手を伸ばした。
お題「きらめき」
9/4/2023, 7:02:30 PM