狼星

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テーマ:この場所で #91

「またこの場所で会おうね」
「うん…。約束だから!」

まいちゃんは可愛くて、同じ女の子の私でも勝てない。そんなまいちゃんは優しくてみんなからも好かれている。私もそんなまいちゃんが大好きだった。
ちっちゃい頃から隣りに住んでいたまいちゃんとは、いわゆる幼馴染だった。私はまいちゃんみたいに優しい子と仲良くいられることが嬉しかった。
そんなまいちゃんが引っ越したのは幼稚園を卒園するときだった。母曰く、暇さえあればまいちゃんの所へ遊びに行くような子だったらしい。
そんなまいちゃんと離れる時、私はわんわん泣いていたらしい。まぁ、幼稚園生だったら分からなくもないが…。
「そういえば…まいちゃん、帰ってきたってね」
「え…? そうなの?」
私は母の言葉に素早く反応した。まいちゃんとは文通をしている。姿は覚えていないが、まいちゃんと手紙でやり取りしているときは楽しくてたまらない。
手紙を通してする会話はできたとしても、もしまいちゃんと会ったとして話せるだろうか…。話すとしても、何を話せばいいのだろう…。
「あれ? 言っていなかったっけ? 今日来るって言っていたけど…」
「え!? 今日!??」
私は声が裏返る。なにそれ! 私なんにも準備していないよ? 出かけることになったらどうしよう…。あぁ、心の準備も……なんて考えていると
ーーピーンポーン
インターフォンがなる。まさか……。
そのまさかだった。
母が
「あら、まいちゃん」
そう言って玄関の方へ行く。わ、どうしよう…。私なんにもして無い…。
「え? 舞桜(まお)? いるわよ? 舞桜〜?」
玄関の方から、私の名前を呼ぶ母の声が聞こえる。
あぁ…まだ心の準備が。
私はリビングでソワソワしているとドアが開く。私は咄嗟に背を向ける。
「も〜。舞桜? 呼んでいるでしょう? まいちゃんが会いたがっているわよ」
「まぁまぁ…」
そう言って聞こえてきたのはなんだか低い声だった。
「舞桜ちゃん?」
後ろから呼ばれる。なんだろう。私が想像しているよりずっと低い声…。
私は振り向いた。そこには背がスラッとした細身の綺麗な美男子が立っていた。え…、誰?
そう思って呆然としていると
「あぁ…舞桜ちゃん。変わってない!! 会いたかった!!」
気がつくとその人に抱きしめられていた。
「は…」
私は固まってしまった。
なに、なに、なに? 何が起こっているの? え、誰?
私は頭が混乱していた。母がフフフと笑う。
「大きくなったわね、まいちゃん」
「舞桜ちゃんのお母さん。その呼び方、すごく懐かしいですね。そう言えば舞桜ちゃんも、文通で僕のことそう呼ぶよね」
「え…? まい、ちゃん?」
「え…? そうだけど…?」
私は眼の前にある美形の顔を見つめる。
これは、一体どういうコト…?
「もしかして…舞桜。まいちゃんって女の子だと思っていた?」
「え? 違うの…?」
「僕、男だけど…?」
それは見ればわかる。何? この人、天然なの?
じゃなくて。まいちゃん=男の人?
「あぁ、そっか。僕ちっちゃい頃、両親に女の子みたいな格好させられていたから…」
「あぁ、そうね! それが原因かも」
まいちゃん? と母は打ち解けているがなんだろう。この不思議な空気感。何も不思議じゃないの? 私が変なだけ?
「あれ? 舞桜ちゃーん?」
「え? 本当にまいちゃん?」
「うん」
「私の幼馴染の」
「うん」
「文通やっている?」
「うん」
「女の子の?」
「ううん?」
え…? 
「あ、証拠。別れるときに公園の桜の下で言った言葉言おうか?」
そう言えば、そうだ。私とまいちゃん別れるときに…。
「『またこの場所で会おうね』」
「……!」
私は頭の中でそのセリフが過去のまいちゃんのセリフに重なる。そして気がつく。この人は本当にまいちゃんなんだって。

2/11/2023, 11:48:06 AM