未知の交差点
「お客さん!ここ、どっちに行く?」
気がついたら、タクシーの中だった。
お客さんとは、きっと私のことだろう。
…というか、私はなんでタクシーに乗ってるんだ?
「もう真っ直ぐ進んじゃうよ!」
なにも返事をしない私に痺れを切らした運転手がエンジンをかけて真っ直ぐ進む。
ああ、そうだ。思い出した。
わたし、家に帰れないんだった。
「私、どこに帰ったらいいんですかね…」
同棲していた彼氏に、浮気相手がいた私は。
された側なのに、家から追い出された私は。
運転手は少し面食らった顔をしたあと、イタズラっぽい顔で笑った。
「なんだ、帰りたくない理由でもあるのかい。
それなら、思いつくままにドライブでもするかい?」
思いつくままに、か。
それもいいかもしれないな。
それから私は、思いつくがままに車を走らせてもらった。
右、左、もう一度右…。
見知った街が、どんどん知らない景色になっていく。
そんなに離れてないはずなのに、知らない景色ばっかりだ。
それから、1時間、2時間経った頃。
私は初めの場所に戻ってきていた。
「進んでいれば、どこかしらには着くのさ」
運転手はそう言い残し、お代を受け取らずに走っていった。
「ありがとう、運転手さん」
少し前まで真っ暗闇に感じていた道が
今は少し、輝いて見えた。
10/11/2025, 2:13:32 PM