それは木漏れ日の綺麗な午後、屋敷の庭園に用意されたお茶会の席でのこと。
「なんだか楽しそうね」
淹れたての紅茶が飲みごろになった頃、私はようやく楽しげに微笑んでいる彼に声をかけた。
「うん、とても楽しいよ」
「まだ楽しいお話はしていないと思うのだけど?」
使用人たちを屋敷へ戻し、文字通り二人だけのお茶会を始めたものの、彼は一言も話さずニコニコと笑みを浮かべて私を見ているだけだった。
「君の澄んだ瞳、それを見ているだけで楽しいんだ」
ありふれたブルーの瞳だと思うけれど、そう心でつぶやきながら続く声を待つ。
「その澄んだ青がほの暗く陰る時はいつだろう? 僕と同じ感情の色を宿す時はいつだろう? って考えて、待ち遠しく思う、それがとても楽しいんだよ」
「同じ感情ってなにかしら? あなたを好き、愛してるって気持ちでいいの?」
何を言っているのこの人は、という気持ちは不思議と浮かばなかった。瞬時に浮かんだ同じ感情への疑問を問いかければ彼は小さく首を振って、また私を見つめる。
「もっと黒くてドロドロしている気持ち。君を誰にも渡さない、誰にも見せたくない、とか……早く君にもそういう感情が芽生えないかな」
うっとりと歌うように言葉をつむぐ彼に問いかける。
「あなたにとって私の瞳はどう見える?」
「穢れを知らない、とっても綺麗に澄んだ瞳だよ」
返された答えが子供のように純粋なもので、私はほほ笑む。
「あなたの方が純粋で綺麗な澄んだ瞳をしているわ」
「どうして?」
「私の瞳が宿している、ほの暗さに気がつかないのだから」
嫉妬も独占欲も、はじめて出会った時から芽生えてる。ずっと気づかず、純粋なあなたでいて欲しかったけど……
「ねぇ、あなたはいつ私と同じ色を宿してくれるの?」
一途な想いは狂気にも似て。
お題【澄んだ瞳】
7/30/2023, 5:06:09 PM