# 安らかな瞳
なんで。どうして。
なんで、そんな顔をするんだ。
死に際の笑顔なんて、みんなファンタジーの中の話だろ。現実に起こるわけないって、お前も笑ってたじゃないか。なのにどうして。
どうして、そんなに安らかに。
「……ぉ、まえ…が、な……なよ」
ふざけんな。そう叫びたかった。こちらの感情なんて意にも介さず、お前は苦笑する。笑ってんな、そう言って頬のひとつも叩いてやりたい。
「さぃごに……こ、なによゆうが、ある……とはな」
「……何言ってんだよ」
「は、は…おこ、なよ」
「……怒ってねぇよ」
「なぁ」
「あ……?」
「なくなよ」
頭がカッと熱くなる。泣かせてるのはどいつだ。
ああ、こいつはいつもこうなんだ。こいつのせいで仕方なくやったことなのに、いつも決まって俺を責める。できもしないようなことをお願いしてくる。俺が断れないのをいいことに!
そうだ。俺はいっつもこいつの無茶振りに応えてきた。毎回死ぬほど後悔した。次は絶対きいてやらねぇ。毎度毎度そう思って、結局また願いを叶えてやることになるのだ。
そして俺はきっと、この期に及んでなお、また同じことを繰り返すのだろう。
「泣いてねぇよ」
お前はへら、と情けなく笑った。
よかった。
もはや声も出ない口でそう呟いて、瞼を下ろした。
いかないで。
俺の願いを、お前はいつだって無視した。
3/15/2023, 9:23:27 AM