【クリスマスの過ごし方】
我が家はクリスマスに一切の頓着が無い。その証拠に、もう今夜でクリスマスは終わるというのに、たった4文字の「メリクリ」すら聞いていない。全く、街にはイルミネーションが光りシャンシャンと浮かれた音楽が流れているというのに、高校生の娘はやれ「課題が間に合わない」だの、専業主婦の嫁は「今日のご飯は気合い入れちゃった」だのと、随分呑気なものだった。
「いただきます」
家族揃って手を合わせる。今日の夕飯は、白菜の鍋と、魚の煮付けだった。
出汁の効いた鍋は、一日働いた身体によく染みた。魚の煮付けは、結婚当初からの俺の好物の一つだ。
「うまい」
「それなら良かったわ〜」
「ねぇお父さん、明後日でイルミネーション終わっちゃうんだって、明日行ってきて良い?」
娘が米を頬張りながら聞いてきた。
「誰と行くんだ?」
「彼氏!」
元気な返事だ。
「良いが、寒いからあったかい格好で行きなさい」
「はーい」
他愛ない会話をしながら箸を進めていると、いつの間にか鍋の中身は空っぽになっていた。
「ごちそうさまでした」
皿洗いのためにシンクに向かおうとした所で、パチリと電気のスイッチが落ちて部屋の中が暗くなった。
「ハッピバースデートゥユー」
ゆらゆらと揺れるろうそくの明かりに合わせるように、そんな歌声が響いた。
「誕生日おめでとう、お父さん!」
パチリとまた電気のスイッチが鳴った。明るくなった視界には、誕生日ケーキがあった。
「毎年毎年、よく飽きないな……」
「やーねぇ、飽きないわよ、貴方の誕生日ですもの」
「ねぇー!早く食べたい!火消して!」
我が家はクリスマスに一切の頓着が無い。本当に、嬉しいものだ。緩んだ口元を誤魔化すように、くゆる灯火に息を吹きかけた。
12/26/2023, 7:25:40 AM