# 二人ぼっち
深い森の奥の奥、僕らは二人で息をしていた。
翠緑の木々が葉を揺らす夏。森が赤く衣を変える秋。生命の気配が消え去る冬。雪解け、花萌ゆる春。その全てを二人で過ごした。牛を飼い、芋を育て、鹿を狩って生きた。お金なんてなかったから、何から何まで二人きりで賄った。それでも、案外豊かな生活を送れていた。
なぜこんな所で暮らしているのか、なぜ二人きりになったのか、もう覚えていない。覚えていたとしてもどうでもいい。そう思えるほどに、僕らは幸せだった。
晴れた日の昼下がりは、木陰に座って詩を書いた。傍らに彼女が寝転がって、何をするでもなくゆっくりと呼吸をしていた。がさりと音がしたから顔を向ければ、小さな兎がこちらを見ていた。僕はその風景を書いた。何より、何より綺麗な光景だった。
遠く、砲声が聞こえた。それで思い出した。
外は今も鉄が降っているらしい。まあ、どうでもいいか。どうせここには届かない。
そう思った所で、ふと自嘲する。そういえば、
ここには届かないどころか、心臓にまで届いたのだった。
3/21/2023, 2:50:10 PM