サンタクロース。通称サンタ。
曰く、全身を赤と白のめでたい色に身を包み、ベルの音色と共に現れては一夜にして『良い子』にプレゼントを配り回る白髪白髭の老いぼれ、らしい。
いいこ、イイコ、『良い子』だって。
おもしろ。笑わせんなよ。
『良い子』ってのは一体どんなヤツのことを指しているんだ?
毎日学校に通っているようなヤツ?
文武両道で友達が多いようなヤツ?
大人の言うことを聞くようなヤツ?
それともお前みたいに完璧のヤツ?
ま、別にどうだって構わない。
所詮『良い子』とやら以外、サンタと全く関係無さそうだし。知る必要も無いだろうさ。
「お前はサンタから何が欲しいの。」
そう聞いてやるとパチリと目が合った。
コイツにしては珍しく少し悩むように黒目を動かし、そして再び目が合った。
「クラシックのCDとか?」
クラシック?お前が?
そう言いかけて口を閉ざす。
そういえば見かけによらず多趣味で器用なんだった。囲まれるほど多い友人の一人にでも勧められたんだろう、わざわざCDを買うなんて律儀なヤツだ。
隣を歩くソイツが、たった数日先すら待ち遠しいと言わんばかりに空を見上げるもんだから。釣られて見上げて、そして後悔した。
冷たく切り取られた空。いつもと変わらない煙色が広がり、飛行機がナメクジの這う跡を引き伸ばす。コンクリートを見ているのと変わらないのに、何をそんなに見つめているのやら。
顔を上げるのは中々に苦痛で飽きてしまったから、暫くは普通に歩くことにしよう。
捨て置かれて錆び付いた自転車の横を通り抜け、掠れ傾いた看板の釣り下がる店を曲がり、吸殻と缶ビールが散らかる空き地で言い争う音を聞きながら道端の雑草を踏み付けて帰る。
そういえば、サンタはどこから来てどこに帰るのだろうか。
愉快なベルを殺し、目の眩む電飾から逃げるように空へと、闇へと消えていく。そういう存在なら嘲笑う為に『良い子』になる価値もあるかもしれない。
「なあ、おまえだったらクリスマスプレゼントに何が欲しい?」
あくびが出るほど退屈な景色を歩いていた筈だったが、いつの間にかコイツとの別れ道まで歩いたらしい。
危うく雑音として聞き流しかけていた言葉を今ようやく理解した。
「別に何も。」
「ないのか、何も?」
ない。思い付かない。なにも。
念の為もう一度確認する。
…欲しいものは?
不意に大きな風が吹く。
思わず体が震えた、ああ寒。凍えてしまう前に逢いにいかないと。今日のサンタの元に。
とうに日は沈み、月の光が見えなくても街は人工的な灯りとジングルベル撒き散らして煩わしい。
だからこそ、その中の一つに身を沈めてサンタの温もりを享受しないと。その間はきっと『良い子』の仲間入りでもなんでもできるだろうさ。
「じゃあお前と同じものでいいよ。」
それさえあれば『良い子』じゃなくともベルの音が聞こえる気がするし。
なんてね。
22.12.21 -ベルの音-
12/20/2022, 5:52:19 PM