狼星

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テーマ:嵐が来ようとも #258

私の彼氏はちょっと頼りない。
「う、うわぁ!」
虫を見れば声を上げ、
「む、無理〜!!」
怪談話を聞けば耳をふさぐ。
私はそんな彼氏をいつも守ってあげていた。
弱いのは優しいから。
根拠もない誰かが言った、そんな言葉を信じていた。

「嵐が来ようとも守ってやるよ」
そんな彼氏が停電して怖くて震えていたとき、
そっとそばに来て手を握ってくれた。
なれないことを口にしたから、
思わず笑ってしまった。
何だか少女漫画みたいな台詞だったからだ。
そんなときでも彼氏の手は震えていて、
「カッコ悪いなぁ」
苦笑いしている声が聞こえた。
「ううん。今のはちょっと、カッコよかった」
私は笑ってそう言うと暗闇の中ギュッと手を握られる。
「君が笑ってくれるなら、僕は……」
そういった時、パッと明かりがついた。
サッと彼氏は私から距離を取る。
「ごめん……」
両手で顔を覆う彼氏。
耳まで真っ赤だった。
私の彼氏は頼りない。
でも世界一可愛い彼氏だ。

7/29/2023, 2:08:53 PM