いのちだいじに

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桜散る

チリンッ

小娘。そなた何故ここにおる。さくらぁ?このような小さな花ごときになんの意味がある。すぐに散って消えてしまうこの花など。
良いか?ここはそなたのような者が来るものではない。ここはな、そなたが毎夜恐れ母に縋りつくほど嫌悪する、妖共がそこらにひそんでおるのだぞ。怖いのならば今すぐに立ち去れ。……帰り方が分からぬと?はぁ、近くの道まで送ってやる。もう二度とここには来るなよ。


ここに来るなと言われて翌日来るやつがいるか、この阿呆め。何の用だ。桜はほとんどが散ってしまったぞ。それにここよりもそなたのいく村に咲く梅のほうが綺麗だろうに。そなたは何故ここにくる。……答えぬのか?つまらんの。そなたでもないのに、考えることなど分かるわけがなかろう。さぁ、妖が活動し始める。はやく帰ることだな


知っておるか?ななつまでは神の子と。あれは間違いだ。ヒトの子が勝手に愛らしいそなたたちをそう呼ぶだけだ。そもそもヒトから生まれたというのに何故神が生まれるという勘違いをしたのか甚だ疑問だ。……違う?ほ、本当にただ愛らしいだけを比喩したと?ははは、そうなのか。ふふ、確かに拝んでいるところは見たことがないな。そうか、ふふふ、人間とは面白いな。

なぁ、そなたはいくつになる。そうか。もうすぐ、ななつだったな。なら、もうここには来られないな。安心しろ。記憶は消える。覚えていなくて不安になる必要もないさ。ここにいられるのはななつまでだ。そなたもヒトの子として生きることになるだけだ。ななつまではかみのうち。神からの祝福でできたそなたがいつまでも幸せであれるように心から願おう。そしていつか、……いや、なんでもない。ではな。



これがあやつの思い出か。ああ、美しいな。まるで満開の桜だ。せめて、この記憶が美しいまま散っていけ。さよなら、愛しい我が子。

4/17/2023, 2:31:12 PM