睦月

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『胸が高鳴る』

学生の頃は、まさかこんな惨めな人生になるなんて想像もしていなかった。
卒業したら、就職して、いずれ結婚して…なんて何の根拠もなく思っていた。
それなのに…
仕事もない お金もない 恋人もいない
夢も希望も何もない
自分なんかこの世にいてもいなくても同じ、死んだところで誰ひとり悲しんでくれる人もない。
自分は家族や社会に必要とされ役立つ人間だと思いたかった。
そんな心の支えが欲しかった。
けれど、自分は誰からも必要とされていない。
現実に打ちのめされ、どん底に突き落とされた気分は、更に暗闇の世界に簡単に引きずり込んでしまう。
もがいて あがいて それでも無理で…

だけど…あの日…
どす黒い闇に覆われていた自分の人生に
一筋の光明が差した気がした
心洗われるような、美しい音色
無意識に涙が流れた
次々に涙が溢れ…止まらない…
「私…まだ泣ける…だったら…また笑えるかも…」

胸が高鳴るって、こんな感じなのだろうか?
何の根拠も自信もないのに
何だかなんとかなりそうな気がした

あの日、一歩を踏み出す勇気をくれた
誰かが弾いてたピアノの音色
今でも
自分を見失いそうになるたびに思い出す







3/19/2023, 11:00:55 AM