「自転車に乗って」
はぁっ、はぁっ
自身の荒い息遣いだけが響く熱帯夜。
昼間に降った雨のせいで湿った空気の中を自転車で駆け抜ける。
時折額に走る汗を拭いながらただがむしゃらに漕いでいく。
汗で服がまとわりつくのも気にならなかった。
どうしても、そこから、あの気味の悪い場所から、離れてしまいたかったから。
恋人をとっかえひっかえして、家を放置する母。
何にも関心がなく、人をモノとしか思っていない父。
ただ操り人形のように人の言うことしか聞かない妹。
特に理由もなく人をいじめるクラスメイト。
ただ上の決定を聞いて、意味もなく人を死に追いやるような先生。
そして、そんな中何も出来ず、反抗もしない自分自身。
何もかもがバケモノのようで、気持ち悪くて仕方がない。
だからそこから逃げてしまいたかった。
そして何もかもなかったことにしてしまいたかった。
少しすると、海が見えるところまで出てきた。
月の光でキラキラと照らされ、人のいない静けさで少し寂しくも感じる、美しい海だった。
崖の縁と道路の隙間を縫って走る。
この海で消えることが出来たなら、こんな自分でも美しく散れるだろうか。
そんな事を考えながら海を見ていると、奥に人影が見えた。
その人は海の浅瀬を歩いていた。
下を向いて、白い服を着て、裸足のまま。
1度自転車をおりて、見に行ってみようか。
ふと、そんな出来心が浮かび上がる。
気づいた時には、自転車をおりてその人の方へ向かっていた。
目の前は崖だったけど、最悪死んでもいいかという気持ちでそこから飛び降りると。
「っ!?あぶないよっ」
鋭い声が聞こえると同時に誰かに抱き抱えられながら砂浜に転がる。
「っ痛」
そう言いながら顔を顰めているのはさっき見ていた白い服の人。
遠くからでは分からなかったが、腕にはたくさんの傷があって、逃げ出してきたのかも、なんて勝手に親近感が湧いた。
そして顔を覗く。
「…大丈夫?」
その時カランと何かが落ちるような音が聞こえた気がした。
泣き腫らした目に、アザのある頬。
世間ではきっと大して可愛くもないと思われるような顔だと思うのに、どうしようもなく愛おしくなった。
飴の様に甘く、ビターチョコレートのように深くドロドロとした独占欲。
こんな顔も自分だけがさせたい。自分だけに見せて欲しい。
1度落ちたら抜け出せない沼のようで、初恋が一目惚れなんて、と自嘲気味に笑いながら言う。
「一緒に逃げ出さない?2人で。」
満月が目論見をさらけ出すように、2人をただ明るく照らしていた。
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やばいブランク凄すぎて全然書けない。
ちょっと数日は文芸部もあるんで練習がてら顔出すかもです。
あぁ…全然書けなかった…チ───(´-ω-`)───ン
8/14/2024, 11:49:24 AM