薬子

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「君と最後にあった日」

 夏が終わっちゃうのが寂しいんだ、と言っていた。
「もう、行かなくちゃ」
 僕はそれに答えることができなかった。君のひらひらのスカートの裾と、小麦色に焼けた君の足だけがちらちらと見える。
「……」
 お互いに黙りこくった。きっと君は僕の言葉を待っていたのに、僕は何も言えなかった。
「ばいばい」
 いつも通りの別れの言葉。君のスカートの裾が見えなくなって、僕はようやく顔をあげた。
「……!」
 夕日が僕と、君を乗せた車を照らす。君の顔は逆光でほとんど見えなくて、君を送る言葉ひとつ言えなかった僕への罰だと思った。
「またね」
 そう言えたのは、もう君が遠く見えなくなった後だった。

6/26/2024, 2:11:03 PM