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小さな命




6年前、片足をびっこをひきながら
突然庭に現れた野良猫。
薄汚れ、おびえたような瞳。
痛々しくて哀れだった。
我が家は、丁度、子猫を飼い始めたばかりで
キャットフードがあったのであげてみた。

警戒心強い野良猫は、なかなか慣れないけど
私は、庭に毎日フード皿だけ置いて家に入った。
すると、2~3日に一回のペースでやって
来るようになった。
私が猫のそばでフード皿を与えられる
ほどなれてきた頃、姿を見せなくなった。

庭は、猫の縄張りがあり、違う野良猫も数匹
現れるため、片足びっこ猫は、追われたのかもしれない。

それから、一年ほどたった小雪舞う初冬、
びっこ猫は、片足から血を流し突然、
玄関にあらわれた。
キャットフードを与えるとガツガツと食べた。
痩せこけ毛並みもボロボロ。
一年もどうやって生きて来たのか。
泣きたくなった。

丁度、妹を亡くした喪失感で、
苦しんでいた私には、哀れな野良猫が
妹の代わりに見えこの小さな命を
助けたいという衝動にかられた。

だが警戒心の強い野良猫をどうやって
捕獲するか、猫の知識ゼロ。
地元の保護猫ボランティアの団体に相談した。
丁度いたボランティアのSさんが捕獲を協力して
くれた。
ボランティア団体から借りた捕獲器に餌を入れて
庭に仕掛けた。
Sさんも仕事があるのに毎日様子を見に来てくれた。
それから二週間、やっと捕獲!
Sさんは、捕獲器ごと車に載せ私も一緒に動物病院に直行。
先生の診断は、血を流していた右前足は、
壊死で、即切断手術。
びっこ足から、片足のない猫になる。
ショックだった。そんな障害の猫を飼えるのかと
私は、動揺した。

だけどあの寒空の下、片足を引きずり
飢えてさ迷う小さな命を救いたい。
私は、間違いなくそう思って捕獲したのだ。

Sさんに、「片足が無くたって普通に生活してる
猫は、たくさんいるから、大丈夫」と優しく
励まされた。

Sさんは、今まで、野良猫に、里親さんを見つけ、暖かい家と飢えのない生活を与えることで
小さな命をたくさん救ってきた。
彼女の言葉は、積み重ねた確かな経験から
つむぎ出されたものだから。
信じられる。
私は、この子を救える。大丈夫。大丈夫。
手術に動揺なんて情けない。
私は、大丈夫。

その日から、障害猫との時間が
スタート。
8畳の空き部屋に隔離して、少しずつ
ならしていった。
手術の痛みでパニックの猫は、ますます
警戒心が強くなり、完全に慣れるのに
三年かかった。

6年たった今、片足が無いことを全く自覚がない
猫は、先住猫と普通に廊下を追い掛けっこ
している。

猫の名前は、小春。小春日和から付けた。

厳しい冬の中に暖かい1日がある。
小春が乗り越えた試練。
これからは、ずっと小春日和だから。

もうひとつ、あとから知って驚いたこと。
Sさんは、亡くなった妹と誕生日が同じだった。
出会いの不思議。

今日も暖かい部屋の一番日差しがあたる
ソファに片足の猫小春は、気持ちよさそうに
お昼寝だ。

小さな命救えて良かった。

でも救われたのは、私。
妹の死から立ち直れたのは、小春に
出合えたからだと思う。






2/24/2023, 1:52:25 PM