狼星

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テーマ:暗がりの中で #348

暗がりの中で一つだけ
君という光を見つけた。

今回もパッとしないなぁ。
オーディション審査員として選ばれた俺は、
これからアイドルになるであろう
アイドルの卵を探していた。
しかし、全くインパクトがない。
早く時間が過ぎてほしいと思うようなものもあった。
次がやっと最後か。
そう思って目を前に向けると
そこには地味なメガネをかけた、
女子高生くらいの子が立っていた。
「エ、エントリーナンバー〇〇ビャン!!」
盛大に噛んで顔を赤くする彼女。
大丈夫か? なんか、間違った子来ていない?
会場がざわめき始める。
しかしここでその空気に飲まれず、
審査するのが審査員の仕事だ。
彼女の特技はダンスだそうだ。
「試しに踊ってみてくれる?」
俺がそう言うとビクンと肩が上がって椅子から立つと
「ヒャイ!」
そう言うと、椅子の前から少し前に踏み出す。
さて、この子はどのくらいか。
ただのドジっ子なら足がもつれてコケるだろうな。
そんなことを思いながら彼女をじっと見つめていた。
メガネを取り、それを椅子の上に乗せる。
すると途端に会場がざわめいた。
ドジをしでかしたわけじゃない。
さっきの彼女とは全く違う、
まるで何かが取り憑いたかのようにしなやかな動き。
俊敏さ。
そして表情。
思わず見惚れてしまった。
俺は咄嗟に手元にある資料を見る。
そこにはさっきまでそこにいた、
メガネの地味な子が写っている。
まるで別人だ。
踊り終わるとまたオドオドしている彼女に戻る。
シーンと静まり返った会場。
俺は拍手した。
ただ圧倒された。
この子は間違いない。
アイドルの卵。
俺は言ってしまった。
他の審査員の誰よりも早くこの台詞を。
「合格」

10/28/2023, 2:40:12 PM