二人だけの秘密
あの夏の匂いは、今でもふとした瞬間に蘇る。照りつける日差しと、少し湿った風。僕たちはまだ子どもと大人のあいだで、世界がやけに広く見えていた。
あの日、君と二人で電車に乗った。行き先なんて大した理由はなくて、ただ「遠くへ行ってみたいね」と笑い合っただけだった。初めてのデートだと意識したのは、改札を抜けてから少し経ってからだった気がする。妙にぎこちなくて、でもそれが心地よかった。
知らない町を歩き、川辺に腰を下ろし、持ってきたおにぎりを分け合った。どうでもいい話ばかりしていたのに、ひとつひとつが宝物のように感じられた。帰り道、夕焼けに染まる空を見ながら、君がぽつりと「今日のこと、誰にも言わないでね」と言った。
僕は頷いた。その言葉が、なぜかとても大切なものに思えたから。
あれからずいぶん時間が流れたけれど、あの日のことは誰にも話していない。あれは僕たちだけの秘密で、そしてたぶん、もう戻らない夏の中にそっとしまわれた、ひとつの約束なのだ。
5/3/2026, 11:29:57 PM