―――声が聞こえる
十年前に亡くなった祖母は小さな漁港がある田舎に住んでいた。
祖母の家は港が見える丘の上にあり、居間の大窓から海を眺めるのが日課のようだった。
祖母は生前、海から祖母よりずっと前に亡くなった祖父の声が聞こえる、と話していた。
「あの人は腕のいい漁師だったから、海に還ってしまったの」
そう言って笑う祖母は少し寂しそうだった。
祖母が亡くなったあと、親戚一同で話し合い丘の上の家は売却された。
立派な屋敷だったが祖母が亡くなって以降、毎晩声が聞こえるようになったからなのだそう。
その声は若い男女が嬉しそうに囁き合う声だとも、「みんなもおいで」と嗄れた女性の弾むような声だともいう。
9/22/2023, 3:02:14 PM