エリンギ

Open App

【ただひとりの君へ】

「僕なんて」
始まった、と思う。もう5年の付き合いになる親友は、極端な自虐をすることが多い。同級生の活躍を聞いた時も、屈託のない笑顔で遊ぶ子供を見た時も。
まあ、それが彼の性分なんだから仕方ない。俺からしたら彼は本当にすごいと思う。金縁の眼鏡は某世界的魔法使いに次いでよく似合うし、ずば抜けた発想力もあるし。
そう言って褒めても、結局「お前のが何倍もすごいだろ」と返されて終わりだ。こうなったら励ましも逆効果なので、俺はいつも黙って話を最後まで聞く。
「でもさ、」
そして、お決まりのセリフを言い放つのだ。
「人間、この世にただひとりだよ?」
比べることないよ、と言えば「そうかな」と遠慮がちな声が漏れる。よし、あともう一押し。
「俺は他の誰でもない、君が好きなんだよ。だから一緒にいるし、困ってたら助けるし、苦手な野菜は食べてもらうの」
「なんだよそれ」
ふ、と彼の顔が緩む。こうなればもう、ネガティブのループにはまることはない。任務完了だ。
「ありがと」
はにかむように笑う君に、どういたしましてと軽く返す。ねーこのままファミレス行かなーい?と無邪気に言えば、あいつらも誘う?と返された。
んー、ふたりきりがいいなぁ
言えるはずもないので、いいねと賛同する。でもまあ、隣は譲りませんけどねっ。
大好きな君と、1度きりの今日を生きていく。

fin

1/20/2025, 7:12:20 AM