こんな田舎早く出ていきたーい!
そんなことを毎日僕の弟は言っていた。
「そんなこと言ったって、お前に都会はまだはえーよ。」
「都会に行きたいとちゃう。はよこのド田舎出ていきたいねん。」
わざわざ「ド」を強く発音する弟に、僕は呆れた。
「お兄ちゃんはこの田舎も好きやよ〜?」
「俺はきらい!」
笑いながらこんなことを話してた家はえらく明るく見えた。
幾年が経ったある日、東京に出た弟が帰ってきた。
「おかえり、久しぶりやね。最近はどーなん?」
「なんも、大きいこともないしいつも変わらんよ。」
たわいのない会話を交わした後、弟は急に
「お兄ちゃんまだこんなとこおるん?」
と言ってきた。
「お兄ちゃんはここが好きやさかいなぁ、
せや、暇やし久しぶりに散歩でも行こうや」
「あ、ここの公園無くなったんだ。」
「そうそう〜、全部なくなってったんよね」
と、僕は泣いた振りをした。
「お前はさ、ここ、好き?」
「……昔は嫌いやった。」
「ここの道さ、ススキまみれやん。僕このススキ見たら元気貰えんねん。ここにしかないススキっちゅーか、なんとも言えんな。ススキ見とるとはお前と過ごした日々とか思い出せたりして、嬉しなるんよ」
「……」
弟はススキをじっと見たままだった。
しばらくしてやっと口を開いたかと思えば、
「はよ帰ろ。お母ちゃんが待っとる」
と言ってきた。特に同情を求めていたわけでもないからつっかからずに
「せやな〜」
と適当に返事をした。
家に帰る途中、弟は
「俺、ここは嫌いやけどお兄ちゃんはすきやよ。
そやからススキも好き。」
まさかこんなことを言われるとは、明日は雷でも落ちるのかとさえ思える
「お前がそんなこと言うなんて、意外やな」
僕は苦笑しながら俺も好きやよ〜なんて言いながら頭を撫でる。
「散歩、ありがと。俺さ、ここに帰ってこようと思っとるんよ。東京ちょっと辛くてさ」
「ほうか〜!いつでも帰っといで。俺もススキもずっとここにおるさかい。」
「ほうか」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんのことススキみたらよう思い出すわ。いっつも元気くれるんわ、やっぱお兄ちゃんやな。お兄ちゃん、俺結構生活充実しとるんやで?いつも笑っとるし楽しい。お兄ちゃんおったら多分、もっと楽しかったな。いつも俺のそばにおってくれてほんまありがとう。ほんとは先にいかんといて欲しかった。お兄ちゃんはススキやんな。いつまでも俺の事見守っとってな」
「おう!」
11/11/2022, 7:49:05 AM