「ミッドナイト」
目が覚めた私は、ふと思い浮かんだ言葉を口に出していた。
真夜中の0時を指す言葉。
恐らく誰もが知っている言葉だと推測されるが、この言葉に思い入れがあるのは、その「誰もが」の一部の人達だけではないだろうか。
ぼんやりとした頭の中、空気の乾燥を感じるほど、唇が乾いている。
水を飲もう、と一枚ずつ布団をめくりながら起き上がった。
遠くで救急車のサイレンが聞こえ、次第に小さくなり聞こえなくなっていった。
戸棚からコップを取り、ペットボトルの水をそそぐ。
それを口に運んだ後、ごくり、と私の喉が鳴った。
私の母も、あの夜水を飲みたかっただろうか。
あの日、仕事帰りの電車を待つ中で、母と連絡が取れなくなった、と一通のラインが入った。
母は胆嚢癌を患い、コロナ禍の病院の満床に伴って、比較的健康、と判断され、誰もいない家へ一時退院を余儀なくされていた。
癌を患い、ステージ4で1人で歩くこともままならない、細くなった身体で、テレビで見ていた命の選別にまさか自分の家族が巻き込まれるとは思っていなかった。
母は岩手、私は神奈川と離れて住んでおり、すぐに向かえる距離ではなかった。
幸い、母が最後に心を開いた相手がおり、その人が私に変わって世話をしてくれていた。
毎日来ていた母からのラインも簡単な文章やスタンプ1個、もしくは帰ってこない日も増えてきていた。
私が上京してから、ほぼ毎日連絡をかかすことがなかった母のことを思い出すとそこまで体力も奪われていたのだろう。
母をお世話して
1/26/2024, 2:17:19 PM