遠くへ行きたいと夢見る少女がいました。しかし彼女には実験体としてのコードネームは【被験体H01】ですが、名前はありません。そんな彼女の研究担当者の名前は依夜直人。彼は研究者兼執事で彼女の事を【ほのか】と呼んでいました。
ある日暑い日の昼下がりの午後のことでした。ほのかは何処からか飛んで来た鳥が窓際にとまっているのを見て無防備な笑顔をした彼女の姿を見てしまった依夜は彼女の笑顔に心を惹かれてしまい、彼女の笑顔を守りたいと思ってしまいました。だが、実際は実験体と研究者の関係にあり、彼女と過ごした期間は約五年と三ヶ月でした。
移転前の廃墟と化した研究所の屋上の浄水タンク近くの床に寝転んで天体観測をしていると夜烏が飛んできてほのかは夜烏に自身の秘密と運命を託した後に屋上の扉が開くと同時に夜烏は優雅に飛んで行きました。「ほのか...こんなところにいたのか」と屋上に依夜の声が響き渡る。ほのかはゆっくりと伸びをした後に「満点の星空が見たかったからね」と言った後に沈黙が訪れるが、ほのかは浄水タンクに書いた血文字のメッセージを愛おしそうに撫でながら「あの時の...血文字まだ...残っていたんだね」そんな彼女の姿を見た依夜は胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
ほのかは突然、「直人...私は此処にいるからいつでも私に会いに来て...私は待ってる」と言った後に彼を抱きしめるが依夜は驚いて身体を硬直させた後にゆっくりと彼女を抱き締め返しながら「ずっと...こんな瞬間が続けばいいのに...」と彼のささやかな願いは叶うことは無かった。
白地に青薔薇の刺繍が施されたワンピースを着た姿のほのかは次第に起きていられる時間が短くなって行く分、寝る時間が長くなっていく中で彼女は時折、寝言で「...直人...ずっと...一緒に...いたかったけど...私が...直人に...癒しの力を...使いすぎて...私の...寿命が...削られ続けてる...だから....ずっと...一緒に...いてあげられなくて...ごめんね....今まで...ありがとう...」と言う彼女の寝言を静かに聴いていた依夜は「....こちらこそ、ありがとう...こんな形で感謝したく無かった...僕は...ただ...ほのかを守りたかっただけなのに...どうして...君は僕の前から消失するんだよ...」「....私は...自身の...運命を...受け入れているから...抗えるなら...砂時計の...様に...ひっくり返し...たかった...」とほのかは寝言を言った後に嗚咽する姿を見た依夜はそっと彼女を抱き上げて自身の研究室のベッドにそっと横たわらせた後に彼女が寝ているベッドの横に椅子を置いて座ってほのかの手を握ったまま手を離さず、「...ほのか。君がいなかったら僕の心はとっくに壊れてたけど、君は僕にとって最初で最後の希望の光だ」と彼は呟いた。
7/3/2025, 2:24:36 PM