街
街、家屋や店が建ち並び、人が行き交い交流をしている。
朝から果物や野菜、精肉、鮮魚、惣菜を扱う露店が賑わいを見せ、思わず足を向けたくなる衝動に駆られる者も少なくは無い。その道をひとたび歩けば様々な香りに囲まれなすすべも無く懐からコインを取り出したくなる。
「食べたいのですか?」
そう声をかけられ、驚いた様子で振り返ったのは香色ともとれる髪色をした、赤目の少年。視線の先には少年と似た髪色をそよ風になびくほど伸ばし、翡翠を彷彿とさせる瞳をもった穏やかな青年。
いや、と一瞬たじろぐ少年をよそに「ずっと見てましたよ」とくすくす笑い声を漏らすのはもう1人の同行者である少女。まだあどけなさの残る顔に腰の下まで伸びる黄檗色の髪を三つ編みに束ね揺らしている。
「む、……うん、じつはその、気にはなっていた。」
「そうですよね。これだけ朝から賑わっていると、目移りしてしまいそうです。」
「ははは。我々の本来の目的ではありませんが、少しだけ見て回りましょうか。」
「いいのか?」
「あまり時間はかけられませんよ。当初の目的をお忘れなく。ルーラーと、2人で行ってくるといいでしょう。」
ルーラーと呼ばれる少女の方を見ると、艶やかな果物を目を輝かせて眺めていた。
「アーチャーは行かないのか?」
「私はサーヴァントの探索を行います。安心しろとは言いませんが、警戒はしてください。」
「……少しくらいなら、一緒でも大丈夫ではないか?」
「お誘い頂けるのはありがたいですが私なら大丈夫ですから。」
此度の戦いにおいて、サーヴァントとの接触は避けられぬもののためアーチャーと呼ばれた青年は一切油断せず、しかし少年たちにはこの賑わいに乗じて欲しい気持ちが勝っている。
6/11/2023, 4:48:10 PM