【風に身をまかせ】
彼は言った。
「どれだけ僕たちが離れ離れになろうとも、必ず会えるはずさ」
ありきたりな言葉。
私に気づかれないように恋愛ものの映画でも見たのかしら。
そんな妄想をしてしまう自分が何故だか許せなくて。
それでもなぜだか嬉しいと思ってしまったのは内緒。
「どうしてそんな確信もないこと言えるの?」
そんなこと思ってない。
思ってないけど、そうするしかないの。
しょうがないの。
「だって、僕は君を愛しているから」
どうしてそんな優しい笑顔を見せるの。
私を恨んでるんでしょ?
なのにどうして笑うの?
私は貴方を忘れようとしてるのに。
「貴方に分かるわけない。
そんな空想物語あるわけがないじゃない」
私がそんな心にもないことを言っても彼は察してくれる。
何故なら私たちは愛し合っているから。
彼が言った。
「君と一緒ならなんでもいい。
君に限界が来たのなら、僕は風にでもなって君を見守
るよ。」
だから君は風になったのね。
最後に私を抱いたのはいつだったかしら。
そのせいで感じがいしてしまったのよ。
ほんとにこんな日々が続くと言うことをね。
そういえば、去年の夏彼は私を野原に連れてきたの。
そこで彼は1つの小さな紙ひこうきを折って、近くの崖から海へ向かって投げたわ。
その紙ひこうきは案の定下へ落ちていったの。
それを見た彼は照れくさそうにこっちをチラチラと見ていたわ。
それがなんだか嬉しかったの。
紙ひこうきが落ちていったことではなくて、わざわざ私を野原に連れてきてくれて沢山の想い出を作らせてくれたことが。
貴方はすぐに顔に出ちゃうから、鳥のようなものの背中に乗って人を殺しに行く時もずっと私のそばにいたわよね。
そんな想い出ももう捨てたの。
海に浮かんでいる、とても大きい魚に貴方が突っ込んだ時から。
だから私は貴方を忘れようとした。
でも無理だった。
だって、夢にまで出てきてしまうんだもの。
だから私は諦めたわ。
独りで生きることも、2人で死ぬことも。
じゃあどうすればいいんだろう。
あの野原へ行けばいい。
私は馬鹿だから、貴方が最後にいた場所に行くの。
そこはまるで地獄のような景色だった。
それでもいいの、貴方に会えるのなら。
私は体全体の力を抜いてひたすら走ったわ。
途中で黒い弾が体に当たったりもしたけど、そんなのどうでもよかった。
風に身をまかせる
彼が迎えに来てくれるその時まで。
5/14/2023, 1:27:50 PM