NoName,

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僕が身支度をしていると、「からすうりの花ってみたことある?亅と脈絡もなく突然聞かれた。「いや。ていうかからすうりって何?」僕が聞くと、彼は「オレンジ色の実のなるやつ。」と答えた。

「鬼灯のこと?」僕は他の植物の名をあげてしまった。彼は苦笑して「違うよ別物。ま、都会では見ないかな。」
「それがどうしたの?」重ねて僕が質問すると、彼は「ん?あぁ、からすうりの花って夕方から咲きはじめて、次の日の昼前には終わっちゃうんだよ。花の先端が繊細なレースみたいに広がって暗闇に白い花が浮き上がって見えるんだ。甘い香りを放って特定の虫を誘うんだよ。」
「ふーん。」
「暗闇に白い肌を浮き上がらせて、甘い香りで妖しく僕を誘う、昨夜の君みたいだろ?」

昨夜の初めて溶け合った時を思い出し、恥ずかしくなって僕は慌てて話をそらす。
「と、特定の虫って?」
「蛾。」
「蛾?」
「そう。だから僕は蛾でーす。」彼はおどけてそう言うと、ひらひらと飛んできて僕にキスをした。


お題「繊細な花」

6/25/2024, 10:37:32 PM