満月の光が時を告げる。あぁ、もう終わりなのだと鈴の煌めく赤いチョーカーを付けた少年は目を僅かに細め月を見上げる。
「うん、楽しかった。あの頃は出来なかった仲間たちにプレゼントもあげて、ずっと行ってみたかったところにも散歩出来た。それから、大好きだったあの娘とお話しもしちゃったし!あの娘ったらこっちの姿だとちゃんと話してくれるんだね?言葉が違うってかなり厄介なものだよ…でも、満月の奇跡はここでおしまい。楽しかったな。ありがとう、みんな。ありがとう、あの娘」
カランッ
「クロマル?もしかして帰ってきたの?」
スーツ姿の女性が窓から顔を覗かせた。
「そんなわけ…ないか………」
悲しそうに眉尻を下げ目に涙を浮かべながら窓を閉め、後ろの写真に話しかける。
「今日ね、不思議な子に会ったの。クロマルみたいなさらさらの黒い髪にね、何でも私のこと分かってくれそうな優しい金色の目の男の子。その子ね、私に話しかけてくれたの。普通なら無視してたと思うんだけどなんだかほっとけなくってたくさんお話ししちゃった………んだよ」
ついにはグスグスと鼻を鳴らしながら写真立てを抱きしめる。
「私が……あの時ちゃんと…してた…らまだ………隣に居てくれた………はずな…………のに…ごめんね、ごめんねクロマル………………………………」
写真立ての中にはとびきり綺麗な黒い毛皮と金色の目を持ち、首に鈴の付いた赤い首輪の一匹の黒猫が優雅に微笑んでいた。
お題 時を告げる
9/6/2022, 2:49:49 PM