たとえば。
君が少しだけ賢かったら。
たとえば。
君がもっと救いようがなかったら。
たとえば。
君が何もかもを失っていたら。
たとえば。
俺が―――。
抱いた幻想を笑って投げ捨てた。
何を思ったって世界はいつもどおり月が昇り陽が沈む。
生まれた赤子は泣き、潰えた老人は土に還る。
それが真理であり、それが摂理。
代わり映えしない日常を吐き出しながら進む時を受け入れるだけの生き様。
だから君と過ごした縁側も、永い永い生の端っこに引っかかる滲みでしかないのだ。
「 」
記憶は、どこから失っていくのだろう。
記憶は、どこを最後に残すのだろう。
記憶は、何を基準に融けるのだろう。
「どうでもいいや」
ごちそうさま。
手を合わせて、静かに命に感謝する。
ごちそうさま。さようなら。
俺の糧に、君はお成り。
けれど、ふと考える。
声を忘れてしまった君へ。
笑顔を忘れてしまった君へ。
匂いを忘れてしまった君へ。
願わくば。
「また巡り会えたら、優しい歌を聴かせておくれ」
死後の世界も生まれ変わりも信じていない男が呟いた言葉に、返事は無く。
お題「巡り会えたら」
10/4/2023, 5:50:23 AM