August.

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〈高く高く〉

産婦人科からの帰り道、小さな駄菓子屋に寄った。
駄菓子が特別好きではないが、気晴らしにひとつやふたつ、懐かしい菓子でも買おうと寄った。
店内はこじんまりしていて、店主と見られる60代後半の男性もぺこりと頭を下げるだけだった。私以外の客は、小学校低学年くらいの男の子3人だけで、大人の客は私以外誰もいなかった。
どの駄菓子も見覚えあるもので、よく食べていたものまであった。
久しぶりに心躍る感覚に驚きつつも、冷静に商品を見ていく。
「ねぇねぇ、シャボン玉飛ばそーぜ!」
店内にいた一人の男の子が急に言いだした。
一瞬、私に向かって言ってるのかと思ったが、隣にいた2人の男の子に対して言っていたようだ。
2人も「いいね」「俺、赤のやつにする」とわいわい騒ぎ始め、各々シャボン玉キットや駄菓子を手に取り会計をしていた。

彼らがいなくなった店内は、同じ店とは思えないほど静かになった。

「何かあったのですか?」
いきなり店主が、声をかけてきた。
私は驚きつつも「少し、身内の不幸で」と簡潔に答えた。店主は顔を変えず、シャボン玉キットを渡した。

私はその意味をすぐに理解した。

お代を払おうとしたら気持ちだけでいいと断れ、体に気をつけてとにっこり微笑む店主がいた。

家に着き、ベランダに向かう。
さっき買ったシャボン玉キットを開け、シャボン玉を飛ばす。
液の香りがつんと鼻を刺激する。
ぽろぽろ涙が溢れ出てくるが、それでもシャボン玉を飛ばし続けた。
シャボン玉は高く、高く飛んで行く。

10/14/2024, 10:57:25 AM